日本と海外では不動産に対する価値や税制に違いがあり、海外不動産へ投資した方が節税になるということで、多くの投資家が税金対策に利用していました。
しかし2020年度の税制改正で海外不動産の運用所得を損益通算できなくなり、投資による節税効果が大幅に薄れてしまったのです。
ここでは、海外不動産への投資が節税対策につながる仕組みを解説しつつ、規制が入った背景や海外不動産投資に代わるおすすめの節税方法を紹介しています。
現在は個人投資家に対する規制のみとなっていますが、今後法人まで規制が広がる可能性もあるので、この機会に会社の節税対策を見直してみましょう。
生命保険協会認定FP(TLC) / 相続診断士 / MDRT成績資格会員(COT)
この記事の監修担当者:高橋進
新卒で大手百貨店に入社。食料品部では催担当、労働組合では執行役員を務め、接客販売と社内改善に貢献。グッドサービス賞受賞。
その後2013年、外資系大手生命保険よりヘッドハンティングを受け転職。各コンテストで入賞を果たし、個人保険全国3200人中4位特別表彰など業績を拡大。2015年大手上場金融代理店に入社。
MDRT、COT成績資格会員と実績を伸ばし、ワンストップで顧客のための金融サービスを展開する独立型資産形成アドバイザーとして、マネーセミナー講師をしながら、個人から法人、幅広く提案している。その後、非金融業界の会社経営などにも参画し、幅広い知識と経験を持つ。
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海外不動産投資による節税の仕組みを解説
海外不動産への投資で節税効果が得られるとされていた理由は、日本と海外における税制の違いにあります。
まずは、税金対策に大きく関わってくる「減価償却費」に着目し、海外不動産投資の仕組みと節税効果について詳しく見ていきましょう。
減価償却費の計上割合と損益通算
そもそも減価償却とは、固定資産の購入費用を特定の期間で分割して経費計上する仕組みのことです。
減価償却が可能な固定資産には、建物や機械装置、車両などがあります。
また時間が経っても劣化しない固定資産は減価償却の対象外となるため、不動産の場合、建物部分は減価償却可能ですが、土地部分は非償却の資産として計上されます。
海外不動産投資が節税に有効と言われるのは、日本とアメリカなど海外諸国で、不動産における建物と土地の価格割合が大きく異なることが理由です。
日本は土地よりも建物が安い傾向にあり、不動産の価格割合は建物が20%程度です。
一方海外不動産は建物の割合が70~80%と高いため、日本の不動産よりも大きな減価償却費を計上することができます。
日本の税制で「木造建物の法定耐用年数は22年」と決まっており、減価償却も22年間にわたって行われるのが通常です。
しかしこれは新築物件の場合であり、中古物件を購入した場合は簡便法による計算で耐用年数を求めます。
法定耐用年数の一部を経過した場合は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」、全部を経過した場合は「法定耐用年数×20%」となります。
例えば築25年・1億円の建物を日本で購入した場合、減価償却の対象となるのは単純計算で20%の2,000万円。
築22年を経過しているため、耐用年数は「22年×20%=4.4年」となり、4年間で2,000万円(1年あたり500万円)を償却することになります。
同様の建物をアメリカで購入した場合、80%の8,000万円が減価償却の対象となり、年間で2,000万円もの減価償却費を計上できる計算になります。
これまではこの減価償却費を損益通算できたため、課税所得を引き下げて節税効果を狙える手法として多くの投資家が利用していました。
売却時にかかる譲渡所得税を差し引いてもメリットが大きい
アメリカの木造建物は日本よりも寿命が長く、価値も下がりにくいという特徴があります。
日本の場合、耐用年数を過ぎた建物の価値は著しく低下するため、売却時のメリットはほとんどありません。
一方アメリカでは減価償却後も購入時に近い価値で売却できる可能性が高く、売却益を使って新たな海外不動産投資を行うなど、出口戦略も考えやすいのがポイント。
また購入から5年以上が経過した建物を売却すると、長期譲渡所得税として約20%の税率が課せられます。
しかし富裕層などの高所得者の場合、所得税の税率は最大55%にもなるため、譲渡所得税を差し引いても約35%のタックスメリットが得られるのです。
海外不動産投資に対する税制改正の内容とは
海外不動産は建物の価値が高く、減価償却費の計上によって大きな節税効果を得られることから税金対策として人気の投資手法でした。
しかし、2020年の税制改正で海外不動産投資による節税スキームに規制がかかり、これまでのような節税効果が得られなくなったのです。
続いて、海外不動産投資に対する規制の背景や詳細について詳しく見ていきましょう。
海外不動産投資に規制がかかった理由
海外不動産投資による節税は、日本の減価償却の仕組みと、アメリカを中心とした外国の不動産事情を組み合わせた特殊なやり方であり、以前から問題視されていました。
そして各所から「税負担の公平性を欠いている」という指摘を受け、ついに2020年度の税制改正で海外不動産投資による対策が封じられることとなったのです。
税制改正で海外不動産所得の損益通算が不可に
2020年度の税制改正大綱には以下のように記されています。
「個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。」
引用元:https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2020/20191220taikou.pdf
つまり、海外不動産投資で赤字となった場合、減価償却費を経費として計上することができなくなるということ。
例えばアメリカで8,000万円の建物を購入した場合、改正前は年間2,000万円の減価償却費を計上できました。
家賃収入が年間500万円と仮定すると、差し引き1,500万円の赤字となり、これを給与所得などと損益通算することで課税所得の軽減が可能だったのです。
しかし税制改正で海外不動産所得の損益通算が認められなくなり、今後は家賃収入の500万円と給与所得の全てに税金が課せられることになります。
代わりに、減価償却費を生じなかったものとすることで、海外不動産の売却時にかかる譲渡所得を軽減できる仕組みになりました。
また今回の改正は個人に対するものであり、現状、法人については引き続き海外不動産投資による節税スキームを活用することができる状態です。
会社の法人税対策におすすめの手法
2020年度の税制改正で海外不動産投資による節税が封じられたのは個人のみですが、今後法人まで規制が広がらないとは言い切れません。
海外不動産投資での節税が期待できなくなった場合でも対処できるよう、その他の節税対策についても知っておくと良いでしょう。
最後に、法人の節税対策におすすめの手法をいくつか紹介していきます。
役員報酬の見直し
中小企業を対象とした法人税の節税対策におすすめの手法が、役員報酬の見直しです。
役員報酬を会社の経費に計上できるようになると、納税額の違いも大きくなるのでぜひ活用しましょう。
役員報酬を経費計上するためには、「定額同期給与」の条件に沿った支払いを行う必要があります。
定額同期給与とは、毎月一定額の役員報酬を支払うことで、給与の一部として経費化できる制度のことです。
一定期間ごとの給与で、かつその事業年度の各支給時期における支給額と同額であることが条件となっており、利益の出た月だけ報酬を出すといった場合は経費にできません。
しかし、役員の地位の変更や経営状況の著しい悪化など、特別な事情がある場合は年度途中であっても給与改定を行うことができます。
給与改定を行うには、株主総会の開催と議事録の作成・保存が必須となるので忘れないよう注意しましょう。
役員報酬を活用した節税は多くの法人が取り入れている手法であり、税務調査でも重要視されやすい項目です。
その分節税効果も期待できる方法と言えるので、ルールに沿ったうえで見直しを行うことが大切です。
旅費規程の作成
以下の内容をまとめた「出張旅費規定」を作成することで、出張にかかる交通費・宿泊費・その他の費用を経費として計上できます。
- 出張旅費規程の目的
- 適用範囲
- 出張の定義
- 費用の種類と支給額
申請や清算などの手続き方法
出張旅費規定は会社の全社員を対象に作成する必要がありますが、役職によって支給額の内容に差をつけることは認められています。
また同業種・同規模の会社が支給している金額と同額程度であることが条件となっているため、役職ごとに適した金額を設定するようにしましょう。
固定資産の削減
会社で所有している固定資産の中で、すでに使用を終了しているものについては売却・除却・廃棄といった形で経費に計上できる場合があります。
とは言え、固定資産は売却する際もお金がかかるため、すぐには処分できないというケースもあるでしょう。
その場合は、固定資産自体が手元に残っている状態でも除却処理が可能な「有姿除却」の活用がおすすめ。
対象の固定資産がすでに使用されておらず、今後も使用予定がないと認められた場合に適用することができます。
ただし有姿除却は税務調査が入ることも多いため、内容証明のための資料などを用意しておくとスムーズです。
オペレーティングリース
オペレーティングリースとは、リース資産を貸し出す代わりにリース料などの収益を得る取引のことです。
このリース資産を購入する際、リース会社だけでなく法人投資家が投資を行えるようにした仕組みを「日本型オペレーティングリース」といいます。
日本型オペレーティングリースでは航空機・船舶・コンテナの3種類を取り扱っており、航空機リースに投資した場合の大まかな流れは以下の通りです。
- リース会社が匿名組合を立ち上げ、法人投資家(匿名)から航空機購入の資金を集める
- 投資家からの資金が不足している場合は銀行から差額を借り入れる
- 出資金・借入金を使って航空機メーカーから航空機を購入する
- 購入した航空機で航空会社とリース契約を結び、リース会社がリース料を得る
- リース期間満了時に航空会社または市場が航空機を買い上げ、利益が投資家に分配される
リース期間中の物件は匿名組合の所有となるため、匿名組合で減価償却が行われることになります。
減価償却で計上された費用は各投資家へ投資額に応じて分配され、その後会社の経費として損金算入することが可能です。
この仕組みによって、多額の減価償却費を投資初年度に損金算入でき、大きな節税効果が得られるのです。
突発的な利益が出た場合の繰り延べ策として非常に有効と言えるでしょう。
また損金算入で会社の株価が下がるタイミングで自社株移転を行うのもおすすめ。
更にリース期間終了後の売却益が入るタイミングで現社長の退職を行えば、退職にかかる費用と売却益を相殺することもできます。
このように、事業承継を組み合わせることで出口戦略を描きやすい点もオペレーティングリースの魅力です。
まとめ
- 海外不動産は建物に対する価値が高いため、日本の不動産よりも大きな減価償却費を計上できた
- 2020年度の税制改正で海外不動産所得の損益通算が認められなくなり、海外不動産投資による節税効果は大幅に減少
- 今後法人まで規制が広がる可能性もゼロではなく、海外不動産投資以外の節税対策も検討しておく必要がある
大きな節税効果を見込めるとされてきた海外不動産投資ですが、今回の税制改正によって、これまでのようなメリットを得ることは難しくなるでしょう。
今後も節税対策を行うには、海外不動産投資以外の手法を知り、適切に取り入れていくことが重要です。