リース契約には、「購入選択権付リース」という取引があります。購入選択権付リースは、購入選択権をリース契約に付与することで、リース契約者(借主)がリース期間中、又はリース期間満了時にリース物件を買取るかどうかを決めることができる取引です。
リース契約に購入選択権の条項を入れることは、借手にとって選択の幅が広がるなど大きなメリットがあるのに対し、リース会社(貸手)とってはリース終了後に借手が購入選択権を行使しないケースも考えられるため、リスクになってしまいます。
借手に有利となる購入選択権付リース取引は、現在では多くのリース契約に盛り込まれており、日本型オペレーティングリース取引も例外ではありません。ここでは、日本型オペレーティングリース取引を中心に購入選択権付リースをご紹介します。
証券外務員 / ファミリービジネスアドバイザー
この記事の監修担当者:櫻井浩介
日系大手証券会社を経て、顧客第一主義を極めるために2018年に独立。高所得法人やそのオーナー一族をクライアントに持つ。
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購入選択権付リースの概要と特徴
購入選択権付リースは、借主がリース物件を買取りすることを判断できる権利です。通常、リース取引満了時のリース物件の買取り価格(残価)は減価償却後の簿価の金額以上に設定されます。
借手の購入選択権付リースのメリット
購入選択権付リースは、借手側が多くのメリットを享受します。
メリット①リース期間中のリース費用が割安になる
リース期間満了時の買取り価格を高く設定することにより、契約期間中に支払うリース料が割安になります。
メリット②選択の幅が広がる
借主はリース契約満了時(又は契約期間中)にリース物件を設定金額により買取りを行うか、再リース(二次リース)契約を行うか選択します。会社の業績や資金繰りを考慮して選択することできます。
借手の購入選択権付リースのデメリット
借手の購入選択権付リース契約のデメリットとしてあげられるのが、リース契約満了時に「リース物件をリース会社に返還する選択」をした場合に、契約当初に設定した契約満了時のリース物件の買取り価格相当額を補償金として支払わなければならないケースもあります。
日本型オペレーティングリースの購入選択権付リース(JOLCO)
日本型オペレーティングリースとは、複数の投資家(事業者)が匿名組合を通して航空機や船舶、コンテナ設備、高級車などを購入し、航空会社や船舶会社などに貸し出すことで、投資後数年間の間に高い節税(課税の繰延べ)効果を得ることができる投資スキームです。
この日本型オペレーティングリース契約についても、購入選択権を付与する契約と付与しない契約があります。
購入選択権付日本型オペレーティングリース契約のことを「JOLCO」、購入選択権が付されていない日本型オペレーティングリース契約のことを「JOL」と言い、一般的に区分されて呼ばれています。
JOLとは、ジャパン・オペレーティング・リースのことです。一方、JOLCOとは、ジャパン・オペレーティング・リース・コール・オプションのことを言います。
JOLに加えられたCO(コール・オプション)には、購入選択権オプションと言う意味合いがあります。
以前は、ほとんどの日本型オペレーティングリース取引には購入選択権が付与されていたため、JOLと一括りにして呼ばれていましたが、最近では購入選択権を付さない日本型オペレーティングリース契約が現れ出したことから、JOLCOとJOLが区分して呼ばれるようになっています。
JOLとJOLCOの違いは?
JOLCOは、JOL(日本型オペレーティングリース契約)に購入選択権を付したリース契約です。投資家(借手)とってJOLとJOLCOのオペレーティングリース契約は決定的に異なる点があります。それは、「投資の満了時期」です。
JOL(日本型オペレーティングリース契約)の投資満了時期は、リース期間が終了しリース物件を第三者に売却した時点で匿名組合に会計上、売却損益の仕訳が計上され投資が完了します。
一方、JOLCO(購入選択権付日本型オペレーティングリース契約)の投資満了時期は、借手が購入選択権を行使した場合に会計上、売却損益の仕訳が計上され、投資が完了することになります。
借手が購入選択権を行使しない場合は、JOLと同様にリース物件を第三者に売却した時点で投資が完了します。
つまり、航空会社などの借手が航空機などのリース資産の購入選択権を行使しなければ、他の買手を探して売却を行う必要があります。
購入選択権付日本型オペレーティングリース契約は投資家にとってリスク?
投資家などの匿名組合を通して貸手側になる人にとって、購入選択権付きの日本型オペレーティングリース契約と購入選択権なしの契約は、どちらがメリットがあるオペレーティングリース契約になるのでしょうか。
ここでは、どちらの契約が投資家にとって有利に働くのか検討してみたいと思います。
購入選択権付オペレーティングリース契約の場合
購入選択権付オペレーティングリース契約の場合、契約時にリース満了後の売却金額を設定します。
この売却金額の設定はリース物件のリース満了時の簿価(減価償却後)より高く設定されますが、航空機などのリース物件の減価償却は、実際の経済耐用年数より早く償却が行われます。
つまり、リース契約満了時のリース物件の簿価は実際の市場価格よりも低い金額、又は法定耐用年数が全部経過し簿価1円になるケースが多くあります。
もし、リース満了時の簿価より高いが、その時の市場価格より安い金額で購入選択権の設定を行ってしまうと、投資家にとって最終的なリターンが少なくなってしまう可能性があります。最悪の場合、元本割れが発生するケースもあるでしょう。
実際に日本型オペレーションリース契約を取扱う業者では、元本割れが起きないような買取り価格の設定を行い投資家へ提案しているため、元本割れのリスクは極めて低いとされています。
また、航空会社などの借手の財務状況がよほど悪くない限り、購入選択権を行使し、リース契約満了後にリース物件の買取りを行うケースがほとんどです。
「購入選択権を付けないことで売却先が見つからない」という事態を回避する意味では、投資家にとって安全性が高い契約と言えるでしょう。
ただし、事前に決められた価格で買い取りを行うため、大きな収益性を期待することができず、また借手が外国企業の場合は為替リスクが発生することを考える必要があります。
購入選択権が付いていないオペレーティングリース契約の場合
購入選択権が付いていないオペレーティングリース契約の場合は、購入選択権付きの契約に比べて、収益性が高くなる反面、安全性が低下する可能性があります。
リース期間満了後の市場の状態次第では航空機などのリース物件は高値で売却できることがあるためです。
一方、購入選択権付きの契約ではないため、リース物件の売却先を市場で探さなければならず、投資の安全性の面で言えばリスクがあると言えるでしょう。
しかしながら、これまでの日本型オペレーティングリース契約の傾向では、リース満了後にリース物件の売却先が決まらないということは稀です。
日本型オペレーティングリース契約に投資する事業者が安全性を重視するか、収益性を重視するかで、購入選択権付きリースが良いかどうか検討する必要があります。
日本型オペレーティングリース契約のリース期間
購入選択権付のリース契約は、基本的にリース期間満了時に購入選択権が行使されることになります。
日本型オペレーティングリース契約の平均的なリース期間は10年前後と言われおり、リース契約から10年前後で購入選択権が行使されることになります。(オペレーティングリースのリース物件で利用される航空機の法定耐用年数が10年になっているため)
稀な案件として、中古の航空機などが日本型オペレーティングリースの物件になる場合があります。
その際は、新品と比べ耐用年数が短くなるため、リース契約も短くなります。投資家から見れば、投資期間が短い方が投資効率が上がるため、リース期間の短いオペレーティングリース契約の方が人気です。
まとめ
今回は、購入選択権付リース契約について日本型オペレーティングリースを中心にご紹介しました。購入選択権付きのリース取引は借手側から見れば、リース契約満了時の選択肢が広がるため、大きなメリットのある契約です。
一方で、貸手から見れば、借手が購入選択権を行使しなければ新たな買手を探さなければならず、購入選択権を行使する場合は、売却設定価格が市場価格より低くなる可能性があります。
日本型オペレーティングリースに投資を行う場合は、オペレーティングリース契約の購入選択権の有無、リース期間、リース期間満了後のリース物件の資産価値などの確認が必要です。
リターンが元本割れになると、折角の節税対策も意味がなくなってしまいます。事前に十分に検討することをおすすめします。