2020年3月より、国際財務報告基準「IFRS」の新基準であるIFRS16号が強制適用となりました。
日本基準を採用している企業には影響がないように思われますが、実は以前から、日本基準もIFRSに準拠しようという動きがあり、度々内容の見直しが行われているのです。
そのため、今後日本基準でも同様の変更が行われる可能性は高く、日本基準を採用している企業においてもIFRS16号について理解しておくことは重要といえます。
この記事では、従来のファイナンスリース・オペレーティングリースの概要と、IFRS16号の適用で変更となるポイントについて解説しています。
IFRS16号の適用によるオペレーティングリースへの影響についてもまとめているので、リース取引を行っている経営者の方はぜひ参考にしてみてください。
生命保険協会認定FP(TLC) / 相続診断士 / MDRT成績資格会員(COT)
この記事の監修担当者:高橋進
新卒で大手百貨店に入社。食料品部では催担当、労働組合では執行役員を務め、接客販売と社内改善に貢献。グッドサービス賞受賞。
その後2013年、外資系大手生命保険よりヘッドハンティングを受け転職。各コンテストで入賞を果たし、個人保険全国3200人中4位特別表彰など業績を拡大。2015年大手上場金融代理店に入社。
MDRT、COT成績資格会員と実績を伸ばし、ワンストップで顧客のための金融サービスを展開する独立型資産形成アドバイザーとして、マネーセミナー講師をしながら、個人から法人、幅広く提案している。その後、非金融業界の会社経営などにも参画し、幅広い知識と経験を持つ。
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ファイナンスリースとオペレーティングリース
IFRSの変更点を解説する前に、まずは従来のファイナンスリース・オペレーティングリースの仕組み・判定基準について詳しく見ていきましょう。
ファイナンスリース取引とは
ファイナンスリースとは、以下の2つの要件を満たすリース取引のことをいいます。
ノンキャンセラブル | リース契約に基づくリース期間の中途で当該契約を解除することができないリース取引、またはリース料相当の違約金を設けるなど、事実上中途解約不可と認められる取引 |
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フルペイアウト | 当該契約に基づいて使用する物件からもたらされる経済的利益の享受と、同様にして生じるコストを実質的に負担するリース取引 |
ファイナンスリースでは、リースしている物件が不要になった場合でも中途解約はできません。
また修理やメンテナンスが発生した場合、その費用は借手側の負担となるのが特徴。
つまり、リースという形式ではあるものの、実際は分割払いで物件を購入することと同義になります。
またファイナンスリースの場合、契約内容によって更に「所有権移転ファイナンスリース」と「所有権移転外ファイナンスリース」の2種類に分けられます。
所有権移転ファイナンスリースと判定されるケースは以下の通り。
- リース期間終了後または途中で所有権が移転するリース取引
- リース期間終了後または途中で時価と比較して著しく有利な価格で物件を買い取る権利が与えられており、かつその行使が確実に見込まれるリース取引
- 借手の用途に合わせて特別仕様でつくられた物件であり、返却後に第三者へ再リースしたり売却したりすることが困難なリース取引
上記に該当するリースはオンバランスでの会計処理が必要です。
一方、上記に該当しないリース(所有権移転外ファイナンスリース)の内、少額契約や短期契約などの条件を満たすものはオフバランス処理も可能となります。
オペレーティングリース取引とは
オペレーティングリースとは、任意の契約期間において物件を借りることのできる取引です。
前述したファイナンスリースの要件を満たさないリースは全てオペレーティングリースになると考えると分かりやすいでしょう。
ファイナンスリースとオペレーティングリースの違いとして、以下のような点が挙げられます。
ファイナンスリース | オペレーティングリース | |
---|---|---|
中途解約 | 不可 | 原則不可(早期購入選択権の行使による解約が可能) |
支払リース料 | 購入する場合より高い | 購入する場合より安い |
リース期間 | 法定耐用年数の60~70%以上 | 任意 |
会計処理 | 原則オンバランス | オフバランス |
オペレーティングリースはリース期間満了時に物件を返却することから、その時点の残価予想を差し引いた金額が支払リース料となります。
そのため、リース期間が短期の場合、自社で購入するよりも低コストで物件を使用できるのがオペレーティングリースのメリットです。
新リース会計基準(IFRS16号)の概要とオペレーティングリースへの影響
新リース会計基準(IFRS16号)では、ファイナンスリースとオペレーティングリースの取り扱いに関する借手側の対応に大きな変更が行われました。
続いて、IFRS16で変更となった2つのポイントと、これによるオペレーティングリースへの影響について詳しく見ていきましょう。
ファイナンスリース・オペレーティングリースの区分が廃止に
IFRS16では、ファイナンスリースとオペレーティングリースという従来の区分が廃止されました。
リースの判断基準も新しくなり、今後は原則として全てのリースでオンバランス処理が必要となります。
これまでオペレーティングリースとしてオフバランス処理していたものがオンバランス処理に切り替わると、当然ながら貸借対照表上の総資産・総負債は大きくなります。
負債が増えることで自己資本比率の数値が下がるため、資金調達にかかるコストの増大といった影響を受ける可能性があるでしょう。
また、オペレーティングリースではリース料を全額費用計上することができましたが、IFRS16では減価償却費と支払利息に分けて費用処理しなければなりません。
これにより、一度に費用化できる金額が減少し、営業利益が大きくなる点に注意が必要です。
「リース期間=契約期間」とは限らないケースも
IFRS16ではリース期間の考え方にも変更が行われました。
これまではリース期間=契約期間として会計処理をしていましたが、IFRS16では契約延長や契約解除などの可能性を加味してリース期間を設定することとしています。
延長期間の算出が難しい場合は、過去の平均的な契約期間や経営計画の目標などに基づいて算出を行います。
リース期間が延びると減価償却費も変わってくるため、オペレーティングリース物件が多い企業の場合、貸借対照表への影響が大きくなることは避けられないでしょう。
新リース会計基準(IFRS16号)の適用に向けて
最後に、日本基準に新リース会計基準(IFRS16号)が導入されるタイミングやその範囲について解説していきます。
新リース会計基準の適用時期はいつ?
日本基準にIFRS16が適用される具体的な時期はまだ発表されていないものの、2023年~2025年頃ではないかという予想が立てられています。
これは、2019年3月時点で新リース会計基準の開発が発表されたこと、また草案作成に2~3年かかることから推測されたものです。
参考として、リースに先立って変更が行われた収益認識基準については、2015年3月に開発発表・2021年4月に新基準の適用開始となっています。
新リース会計基準の適用範囲
IFRS16では、「資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」をリースの定義としています。
つまり、費用を支払う代わりに物件を使用する権利を得ている取引については、全てリースとみなすということ。
この定義に照らし合わせると、新リース会計基準では以下のような契約がリースの対象となります。
- 従来のファイナンスリース・オペレーティングリース
- レンタル契約の機械設備
- オフィス・事務所・社宅など不動産の賃貸借契約
- 業務委託契約 など
このように、従来ではリースとして扱われなかった契約もリースに含まれるようになり、その適用範囲は大きく広がることが考えられます。
新たにリースの対象となる物件の資産・負債が貸借対照表上で増加することで、利益率が低下する可能性もある点に注意が必要です。
例外的にオフバランス処理が可能なケース
IFRS16では原則として全てのリース取引でオンバランス処理が必要となりますが、以下に該当する一部のリース取引については、オフバランス処理が認められています。
- リース期間が12ヶ月以内の短期リース
- 新品購入時における資産の金額が5,000米ドル以下の少額リース
新リース会計基準に向けて企業はどう対応するべき?
新リース会計基準が適用された場合、リースの対象範囲が大幅に広がるため、それぞれの会計処理や管理方法などを個別に見直していく必要があります。
リース期間とリース料総額の整合性を確保し、これまでオペレーティングリースで取引していた物件の割引率なども見直しが必要です。
日本基準への適用時期は未定ですが、IFRSに準拠した基準へと足並みを揃えていくことは決定的であり、数年内には新リース会計基準への切り替えが求められるでしょう。
すでにIFRSを適用している同業他社を参考にするなどして、今から情報収集を進めておくことをおすすめします。
まとめ
- IFRS16では、従来のファイナンスリース・オペレーティングリースという区分が廃止に
- これまでオペレーティングリースとして扱われた取引も全てオンバランス処理が必要となり、貸借対照表上の資産・負債に影響が出る
- 日本でもIFRS16に準拠した基準へと変化していくことが予想されるため、今から情報収集・現状把握を行うことが大切
IFRS16が適用されることで、オンバランス処理となるリース取引の範囲が大きく広がります。
監査法人や顧問会計事務所などと相談し、現在のオペレーティングリース取引の整理や会計処理の見直しなどを進めていきましょう。