法人税の節税対策として多くの会社が活用するスキームの1つに「日本型オペレーティングリース」があります。
オペレーティングリースには航空機・船舶・コンテナの3種類がありますが、中でも安定した運用が行いやすいと評判の商品が航空機リースです。
ここでは、航空機リースによる節税の仕組みとメリット・デメリットについて解説しています。
その他の節税手法との比較などもまとめているので、法人税の節税対策でお悩み方はぜひ参考にしてみてくださいね。
証券外務員 / ファミリービジネスアドバイザー
この記事の監修担当者:櫻井浩介
日系大手証券会社を経て、顧客第一主義を極めるために2018年に独立。高所得法人やそのオーナー一族をクライアントに持つ。
主な業務は、資産管理。また、弁護士、税理士、会計士などのプロフェッショナルと協働して、様々な事業承継案件や事業再生案件等、クライアントの持続的発展のためのサポートを多岐に渡っておこなっている。
証券会社時代の経験に基づく資産運用、節税対策などの幅広い経験と知識に裏付けられた誠実なアドバイスは、資金面に悩む顧客から絶大な信頼を得ている。
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航空機リースで節税を行う仕組み
航空機リースは節税を目的とした投資商品の1つで、主に利益の繰り延べによって法人税の対策を行います。
まずは、航空機リースの仕組みと、効果的に節税を行うためのポイントについて詳しく見ていきましょう。
航空機リースは「日本型オペレーティングリース」の商品の1つ
日本型オペレーティングリースとは、リース資産の購入に出資を行うことで、期間満了によって売却益が入るタイミングまで資産を繰り延べられる手法のことです。
一度に多くのお金を繰り延べることができるため、主に突発的な利益が出た年の節税対策として用いられます。
具体的な航空機リースの流れは以下の通りです。
- リース会社が匿名組合を立ち上げ、法人投資家(匿名)から航空機購入の資金を集める
- 法人投資家からの資金が不足している場合は金融機関から差額を借り入れる
- 出資金・借入金を使って航空機メーカーから航空機を購入する
- 購入した航空機で航空会社とリース契約を結び、リース会社がリース料を得る
- リース期間満了時に航空会社または市場が航空機を買い上げ、利益が法人投資家に分配される
一見複雑な仕組みに見えますが、法人投資家の動きとしては、リース資産購入時の出資と期間満了時の益金計上の2つのみ。
また航空機リースでは、期間満了時にリース先の航空会社が航空機を買い上げるケースが多く、大きな損失を被るリスクが少ないのも特徴です。
多額の損金算入による利益の繰り延べが節税のポイント
日本型オペレーティングリースの場合、リース期間中における資産の所有者は匿名組合となります。
そのため減価償却についても匿名組合で計算されますが、匿名組合自体は法人格を持っていないことから、法人投資家へ分配されたあとで課税となる点がポイント。
つまり、航空機の全体価格に対する減価償却費を、会社の損金として計上できるということです。
航空機の購入には法人投資家からの出資だけでなく、金融機関からの借り入れ(レバレッジ)も含まれるため、出資した金額を上回る多額の減価償却費を計上できます。
法人の場合、航空機の減価償却は定率法で行うのが一般的であり、出資初年度から2・3年目までの損金算入割合が大きくなるという点もポイントです。
特に初年度の損金算入割合が大きく、出資額の70~80%を減価償却できる商品もあります。
このように、航空機リースは突発的な利益が出た年の繰り延べ策に効果的であるため、多くの法人から節税対策として人気を集めています。
なお、最終的に損金算入できる金額は出資額と同額までとなっています。
事業承継を絡めた出口対策にもおすすめ
事業承継と組み合わせることで、更なる節税効果を期待できるのも航空機リースの特徴です。
減価償却費の計上によって会社の資産が減った場合、一時的に会社の評価(株価)も引き下げられることになります。
株価が下落したタイミングで株式移転を行えば、譲渡時の相続税・贈与税を節税することが可能に。
航空機リースへの出資による減価償却費は特別損失の扱いとなるため、会社の営業利益に傷をつけることもありません。
また航空機リースの場合、リース期間が終了したところで期間中のリース料や売却益が出資額に応じて分配されます。
この益金は収益として計上が必要となるため、何も対策をしなければ多額の税金が課せられてしまいます。
そこで、益金が入るタイミングに合わせて現社長の退職を行い、退職金の費用と益金を相殺させる形で節税対策を行うのです。
株式移転を航空機リースの出資に合わせ、事業承継の完了(退職)を益金計上に合わせることで、出口での節税対策にも効果を期待できます。
航空機リースを使った節税のメリット・デメリット
航空機リースは節税対策としてのメリットだけでなく、資産運用の観点においてもメリットのある手法です。
続いて、航空機リースのメリットと、抑えておきたいリスクについて詳しく見ていきましょう。
航空機リースのメリット
航空機リースを使った節税対策のメリットには、以下のようなものが挙げられます。
繰り返し出資を行う必要がない
航空機リースへの出資は基本的に最初の1回のみとなっており、毎月・毎年支払いが発生するということはありません。
翌年度以降の利益に左右されることがないため、大きな利益が出た年のみ出資するという使い方が可能です。
需要が比較的安定している
日本型オペレーティングリースは、あらかじめリース期間満了時の残存価格を査定したうえでリース料を算定する「ノンフルペイアウト方式」です。
この残存価格は予想値なので、実際に売却するタイミングの金額が予想値を上回るケースも少なくありません。
売却時の金額が残存価格を上回った場合、売買差益(キャピタルゲイン)として更なる利益が得られます。
航空機のように需要が安定している物件であれば、この売買差益を得られる可能性も高くなります。
参考として、航空機リースと同じ仕組みで投資ができる船舶リース・コンテナリースとの需要判定基準などの違いをまとめました。
航空機 | 船舶 | コンテナ | |
---|---|---|---|
最低出資額 | 3,000万円 | 3,000万円 | 1,000万円 |
リース期間 | 8年~12年 | 6年~10年 | 5年~7年 |
需要判定の指標 | 世界人口 | バルチック海運指数 | GDP成長率・交易係数 |
価値の変動 | 需要が高いため比較的安定している | 変動が激しい | 技術革新が起こらないため下落しにくい |
船舶リースは価格変動が激しいため、大きな利益が出る可能性を持っている反面、大きな損失となるリスクも。
またコンテナは利益・損失ともに発生しにくく、基本的には出資額調整のために航空機リースと組み合わせて利用される商品となっています。
節税対策を行いつつ、資産運用もきちんと行いたいという場合は、航空機リースへの投資がおすすめです。
航空機リースのデメリット
航空機リースはメリットの多い節税スキームですが、以下のようなデメリットがあることも理解しておく必要があります。
出資者側による中途解約はできない
日本型オペレーティングリースは原則として中途解約を行うことができません。
リース先の航空会社が早期購入選択権を行使した場合をのぞき、リース期間中は出資した金額を動かせないという点に注意しましょう。
元本保証がない
日本型オペレーティングリースは元本保証がないため、大きな需要変動が起きた場合は元本割れを起こすリスクを持っています。
昨今の新型コロナウイルス感染拡大では多くの航空会社が倒産し、オペレーティングリースにも影響を与えました。
航空機リースへ投資を行う際は、信用度が高く倒産のリスクが低い航空会社を選ぶなどの対策が必要です。
こんなシーンでは航空機リースの活用が有効
上記のメリット・デメリットを踏まえ、次のケースに当てはまる法人では航空機リースの活用がおすすめ。
- 突発的に大きな利益が出た場合
- 1億円以上の余裕資金があり、運用を行いたい場合
- 事業承継にともなう自社株対策が必要な場合
航空機リースは数千万円単位で利益の繰り延べを行えることから、突発的な利益が出た年の節税対策として非常に有効です。
事業承継を組み合わせることで更なる節税効果も期待できるため、株式移転などを予定している場合はぜひ活用を検討してみてください。
法人税対策に活用されるその他の手法との比較
航空機リース以外にも、法人税の節税対策として利用されている手法があります。
最後に、その他の節税手法の概要と、航空機リースとの比較について詳しく見ていきましょう。
生命保険への加入
生命保険への加入は以前から法人税の節税対策として広く利用されてきました。
生命保険は掛け捨てのため満期返戻金がなく、解約返戻率がピークとなるタイミングで解約して返戻金を受け取るのが一般的な節税のやり方です。
しかし、生命保険は保障を受けることが本来の目的であるにもかかわらず、解約返戻率を過度に引き上げるなど節税目的の商品化が加速。
この対策として2019年に税制改正が実施され、現在は以前ほどの節税効果が得られなくなっています。
節税のために利用するのであれば、規制のかかった生命保険よりも航空機リースの方が効果的です。
不動産投資
不動産投資は日本型オペレーティングリースと同様、減価償却費の計上によって節税効果を得る手法です。
家賃収入や不動産管理にかかる経費も損益通算可能なため、不動産投資によって損失が発生した場合に、総所得から控除を行うことができます。
ただし不動産投資は出資して終わりではなく、その後の建物の管理や修繕など様々な業務が発生します。
またエリアを考えずに購入すると思うように家賃収入が得られず、資金繰りが難しくなるといったリスクも。
節税効果を得つつ、定期的なキャッシュアウトの起こらない方法を選択したい場合は日本型オペレーティングリースが適しています。
まとめ
航空機リースまとめ
- 航空機リースは航空機購入への出資に対する減価償却費の計上によって節税を行うスキームのこと
- 節税効果だけでなく、運用のしやすさや利益の安定性でもメリットのある手法
- 生命保険や不動産投資と比較して、航空機リースはキャッシュアウトの頻度が少なく計画を立てやすい
航空機リースは出資初年度から大きな損金を出すことのできる人気の節税手法です。
突発的に大きな利益が出てしまったなど、税金対策でお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。