会社に新しい設備や車を導入する際、自社では購入せずリースで揃えるという方法があります。
リース取引にはファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引の大きく2種類があり、それぞれ条件や所有者の定義などが異なります。
この記事では、主にファイナンスリース取引の判定基準とオペレーティングリース取引との違いについて解説。
節税面ではファイナンスリース取引よりもオペレーティングリース取引が有利になる理由もまとめているので、リース取引を使った節税をお考えの方は参考にしてみてください。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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ファイナンスリース取引の判定基準
まずは、ファイナンスリース取引の判定基準と、判定を行うためのフローチャートを見ていきましょう。
なお、ここでは2020年3月以降より適用されている新リース会計基準(IFRS16号)に基づいて紹介しています。
ファイナンスリース取引の定義
ファイナンスリース取引として扱うための主な判定基準は以下の2つです。
- リース契約に基づくリース期間の途中で当該契約を解除することができないリース取引、またはリース料相当の違約金を設けるなど、事実上解約不可と認められる取引
- 当該契約に基づいて使用する物件からもたらされる経済的利益の享受と、同様にして生じるコストを実質的に負担するリース取引(フルペイアウト)
上記に当てはまるリース取引はファイナンスリース取引となり、売買処理(オンバランス処理)が必要です。
判定フロー①解約不能・フルペイアウトの判定
ファイナンスリース取引の判定フローチャートでは、はじめに前述した2つの要件を満たすかどうかをチェックします。
どちらかを満たしていない場合はオペレーティングリース取引、どちらも満たしている場合はファイナンスリース取引として2段階目へ進みます。
ノンキャンセラブル(解約不能)
解約ができないと定められている契約、または解約した場合に解約時以降のリース料相当額を違約金として支払うことが定められている契約のことです。
違約金が設定されている場合、解約しても支払う金額が変わらないため、事実上解約不能という扱いになります。
フルペイアウト
フルペイアウトの判定には、以下の2つの基準が使われます。
どちらかを満たしている場合はフルペイアウトとして判定され、ファイナンスリース取引での処理が必要です。
●現在価値基準
現在価値基準とは、リース料総額の現在価値が、物件を購入した場合の想定価格の約90%以上となる場合にフルペイアウトと判定する基準です。
つまり、見積現金購入価格に90%を乗じた金額と比較して、解約不能期間中のリース料総額の現在価値が上回る場合はこの条件を満たしていることになります。
●経済的耐用年数基準
経済的耐用年数基準とは、解約不能期間が、物件の経済的耐用年数の約75%以上となる場合にフルペイアウトと判定する基準です。
例えば、経済的耐用年数が8年の物件の場合、解約不能のリース期間が6年(8年の75%)以上であればこの条件を満たしていることになります。
判定フロー②所有権移転の判定
フローチャートの2段階目では、ファイナンスリース取引が所有権移転のリース取引に該当するかどうかを判定します。
以下のいずれかに該当する場合は所有権移転ファイナンスリース取引として売買処理(オンバランス処理)が必要です。
またいずれも該当しない場合は所有権移転外ファイナンスリース取引として3段階目へ進みます。
- リース期間終了後または途中で所有権が移転するリース取引
- リース期間終了後または途中で時価と比較して著しく有利な価格で物件を買い取る権利が与えられており、かつその行使が確実に見込まれるリース取引
- 借手の用途に合わせて特別仕様でつくられた物件であり、返却後に第三者へ再リースしたり売却したりすることが困難なリース取引
判定フロー③少額契約等の判定
フローチャートの3段階では、少額契約や短期契約などの基準に基づいて、賃貸借処理ができるかどうかを判定します。
以下のいずれかに該当する場合は、ファイナンスリース取引であっても賃貸借処理(オフバランス処理)が可能です。
いずれも該当しない場合は、4段階目のフローへ進みます。
- 重要性が乏しい減価償却資産を対象とするリース取引
- 解約不能のリース期間が1年以内のリース取引
- 重要性の乏しいリース取引で、かつ1件あたりのリース料総額が300万円以下のリース取引
判定フロー④中小企業会計指針の適用の判定
フローチャートの4段階目では、借手となる会社が中小企業会計指針の適用範囲であるかどうかを判定します。
以下のいずれかに該当する場合は、売買処理(オンバランス処理)が必要です。
いずれも該当しない場合は、賃貸借処理(オフバランス処理)を行うことができます。
- 金融商品取引法の適用会社またはその子会社・関連会社
- 会計監査人を設置している会社またはその子会社(資本金5億円以上など)
オペレーティングリース取引の判定基準
続いて、オペレーティングリース取引の定義とファイナンスリース取引との違いについて見ていきましょう。
オペレーティングリース取引の定義
ファイナンスリース取引の判定基準である解約不能・フルペイアウトに該当しないものをオペレーティングリース取引といいます。
オペレーティングリース取引では、リース期間終了時の残存価格を想定したうえでリース料を算出するため、物件の想定購入価格よりも少ない金額の支払いで済みます。
リース会社はリース料だけではコストを回収できない一方、売却価格が予想の残存価格を上回った場合にキャピタルゲイン(売買差益)を得られるのが特徴です。
会計処理におけるファイナンスリース取引との違い
会計処理の面では、ファイナンスリース取引が売買処理(オンバランス処理)になるのに対し、オペレーティングリース取引は賃貸借処理(オフバランス処理)となります。
オフバランスで処理できるということは、資産や負債として貸借対照表に記載する必要がないことを意味するため、ROA(総資本利益率)の向上などにつながります。
ファイナンスリース取引で節税はできる?
法人税の節税手法として、航空機や船舶を活用したオペレーティングリース取引への投資(日本型オペレーティングリース)があります。
最後に、日本型オペレーティングリースの概要と、ファイナンスリースではなくオペレーティングリースが節税に効果的とされる理由について詳しく見ていきましょう。
利益の繰り延べに有効な日本型オペレーティングリースの概要
日本型オペレーティングリースとは、従来のオペレーティングリース取引に匿名組合という契約形態を組み合わせた投資商品の1つです。
借手としてオペレーティングリース取引を行うのではなく、オペレーティングリース取引に使用される物件へ投資するというものになります。
主な物件として航空機・船舶・コンテナの3種類があり、法人投資家からの出資と金融機関からの融資を合算して物件を購入します。
日本型オペレーティングリースに出資を行った場合、出資金は有価証券として扱われるため、匿名組合で発生した損益を自社でも認識できるのが大きな特徴です。
これにより、多額の減価償却費を早期に算入でき、利益の繰り延べとして活用することができるのです。
基本的には出資初年度に出資額の60~80%、2年目に残りの金額を減価償却できます。
航空機や船舶などは億単位の高額物件であるため、このように大きな減価償却の計上が可能となるのです。
突発的な利益対策としてリース取引の活用をお考えの方は、ぜひ日本型オペレーティングリースへの投資を検討してみてください。
まとめ
- 解約不能・フルペイアウト方式と判定されたリース取引をファイナンスリース取引という
- ファイナンスリース取引に該当しないものはオペレーティングリース取引となる
- 法人税を節税するなら、オペレーティングリース取引を活用した“日本型オペレーティングリース”が効果的
オペレーティングリース取引と比較して、ファイナンスリース取引は判定基準が複雑なため、会計処理の際には注意が必要です。
とは言え、リースを活用することでコストの平準化や事務負担の軽減といったメリットも望めます。
ファイナンスリース取引およびオペレーティングリース取引を有効利用し、効率的な経営を実現していきましょう。