個人事業が軌道に乗ってくると、次のステップとして法人成りを検討する方も多いですよね。
この記事では、個人と法人で税金の仕組みがどう変わるのか、また法人化することで期待できる節税メリットについて解説しています。
コスト面での注意点などもまとめているので、現在個人事業を営んでおり、法人化を検討しているという方はぜひ参考にしてみてくださいね。
証券外務員 / ファミリービジネスアドバイザー
この記事の監修担当者:櫻井浩介
日系大手証券会社を経て、顧客第一主義を極めるために2018年に独立。高所得法人やそのオーナー一族をクライアントに持つ。
主な業務は、資産管理。また、弁護士、税理士、会計士などのプロフェッショナルと協働して、様々な事業承継案件や事業再生案件等、クライアントの持続的発展のためのサポートを多岐に渡っておこなっている。
証券会社時代の経験に基づく資産運用、節税対策などの幅広い経験と知識に裏付けられた誠実なアドバイスは、資金面に悩む顧客から絶大な信頼を得ている。
個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。
税金の支払いにおける個人・法人の違い
個人事業主と法人では、支払う税金の種類や税率のかかり方が異なります。
まずは、税金面での個人・法人の違いと、法人化の検討をはじめる目安について詳しく見ていきましょう。
個人が支払う税金
個人事業主の場合、1年間に得た所得の合計から控除額を差し引いた金額に対して「所得税」が課せられます。
事業に関連する必要経費の他、配偶者控除や扶養控除などを合計から引くことができます。
個人事業主の所得にかかる税率と控除額の一覧は以下の通り。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
この他にも、個人事業主の場合は「住民税」「個人事業税」「消費税」などが課せられます。
なお個人事業税・消費税については、事業の種類および売上高によっては課税されないケースもあるので、各都道府県や国税庁のページをご確認ください。
参考:https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/kojin_ji.html(東京都)
参考:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_3.htm(国税庁)
法人が支払う税金
法人の場合も、1年間に得た所得の合計から控除額を差し引いた金額に対して「法人税」が課せられます。
所得ごとの法人税の税率は以下の通り。
事業年度開始時期 | 800万円以下の部分 | 800万円超の部分 |
---|---|---|
平成30年3月31日まで | 15% | 23.4% |
平成30年4月1日から平成31年3月31日まで | 15% | 23.2% |
平成31年4月1日以降 | 19% | 23.2% |
この他、法人の場合は「法人住民税」「法人事業税」「消費税」などが課せられます。
参考:https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/houjinji.html(東京都)
法人税は所得税と比較して税率がほぼ一定となっており、最大でも23.2%で済みます。
そのためある程度の所得を得ている場合は、個人事業主よりも法人として確定申告をした方が、大きな節税メリットを期待できるということです。
具体的には、年間の課税所得が500万円以上になるかどうかを目安に法人化を検討すると良いでしょう。
すでに所得が700万円・800万円以上あるという場合は、法人化した方が節税面では確実に有利となります。
法人化によって得られる節税メリット
個人事業を法人化させることで、個人事業では認められなかった様々な節税策を利用できるようになります。
続いて、法人化によって期待できる主な節税メリットと活用方法について詳しく見ていきましょう。
給与所得控除による節税メリット
法人化して個人事業主自身が社長に就任すると、役員報酬として自らに給与を支給することができます。
個人事業の場合は事業利益の全てに所得税がかかるのに対し、給与所得の場合は「給与所得控除」を利用して一定額を控除できる点がメリット。
年間所得によっては、100万円以上の節税効果が見込めます。
給与所得に対する控除額の計算方法は以下の通りです。
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円未満 | 550,000円 |
1,625,001円 から1,800,000円 | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円 から 3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円 から 6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円 から 8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円 以上 | 1,950,000円(上限) |
家族に対して役員報酬を支払うことで節税
法人化によって、家族や親族に役員報酬を支払えるようになる点も節税メリットの1つです。
社長である自分だけが給与を受け取るのではなく、家族や親族に分散させることで、個人個人の所得額を抑えられるというメリットがあります。
またそれぞれが給与所得控除を適用できるため、所得分散による節税メリットは更に大きくなります。
個人事業主の場合も青色申告を行うことで「事業専従者」の制度を利用でき、家族や親族に対して給与を支払うことが可能です。
ただし、こちらは労働条件や金額の上限など様々な制約があるため、自由度の高さで比較しても、法人化した方が便利と言えるでしょう。
退職金制度を活用した節税
法人化した場合、5年以上勤務した役員に対して退職金を支払うことが可能となります。
退職金にも税金はかかるものの、退職所得控除などの優遇措置が設けられているため、個人事業の利益として計上するよりも節税メリットが大きいです。
退職所得控除額の計算方法は以下の通り。
続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 (80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
また退職所得の計算方法は以下の通りです。
退職所得=(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1/2
出張手当の経費化
法人化することで経費化できる費用として、出張手当や慶弔見舞金などが挙げられます。
出張にかかる交通費や宿泊費は個人事業主の場合でも経費化が可能ですが、法人であれば更に出張手当の支給が可能となります。
出張手当は経費として計上できる他、非課税の収入に該当するため、受け取った側も課税されないという点で節税メリットのある手法です。
生命保険の保険料を経費化
個人事業主の場合は生命保険料を支払っても経費にすることができず、最大12万円までの所得控除を受けられるのみとなっています。
一方法人契約の生命保険であれば、保険料の一部を経費として計上することが可能。
経費化できる割合などは契約内容によって異なりますが、個人事業主の場合と比較すると節税メリットは大きいと言えるでしょう。
赤字を9年間まで繰り越しできる
年間収支が赤字になった場合、赤字額を翌年度以降に繰り越して利益と相殺できる「繰越欠損金」という仕組みがあります。
個人事業主の場合は繰越期間が3年間までと定められていますが、法人の場合は10年間まで繰越が可能です。
大赤字が出た場合は3年間で相殺しきれない可能性もあるため、10年間まで繰り越せる法人の方が節税メリットは大きくなります。
2年間の消費税免税
個人事業主であっても、以下のいずれかに該当する場合は消費税の納税が必要です。
- 2年前の売上高が1,000万円を超えている
- 前年上半期の売上高が1,000万円を超えている
売上高が1,000万円を超えた場合は2年後に消費税を支払うことになりますが、このタイミングで法人成りすると、更に2年間は納税が免除されます。
これは個人と法人が別人格として扱われるためで、個人事業からの法人成りであっても、法人としては設立1年目となり、納税判定対象期間がリセットされるのです。
投資費用の損益通算による節税メリット
法人の場合、投資に回した資金を経費として損金算入したり、給与所得などと損益通算したりできるというメリットがあります。
個人事業主でも投資自体は可能ですが、節税メリットを受けられるという点では法人の方が有利です。
株式投資
法人による株式投資の場合、受取配当金の20%までは益金不算入となり、課税を避けることができます。
個人の場合は最大15%までとなっているため、法人の方が節税メリットは大きくなります。
海外不動産投資
海外不動産投資では、関連費用の経費化や建物に対する減価償却費の損金算入が可能です。
以前は個人でも経費化が認められていましたが、2020年の税制改正で規制がかかり、現在は法人のみの節税策となっています。
オペレーティングリース投資
数千万円から数億円単位の節税メリットを得たい場合は、オペレーティングリース投資もおすすめです。
オペレーティングリース投資の場合は出資初年度に多額の減価償却費を計上できるため、突発的な利益対策として有効。
こちらは個人だと損益通算ができないため、節税目的で利用するなら法人である必要があります。
節税メリットが大きい一方、コストがかかるなどの注意点も
個人事業の法人成りは節税面で様々なメリットがあるものの、コストや手続きの面ではデメリットも。
ここからは、法人化によって生じるコストや手続きなどのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
会社の設立費用
株式会社を設立する際は、公証人の手数料や登録免許税などの費用として、20万円程度がかかります。
また資本金も準備する必要があるため、20万円プラス資本金が最低限の初期費用になります。
現在は資本金の額を1円から設定できますが、資本金は会社の信用に影響するケースもあるため、あまり低い金額を設定するのは避けた方が良いでしょう。
資本金の平均額は300万円~500万円程度と言われています。
赤字でも住民税の支払いが必要
個人事業主の場合、赤字になった年は所得税や住民税の負担がありませんが、法人の場合は赤字でも法人住民税を支払わなければなりません。
赤字の大小にかかわらず一定額の納税が必要となり、小規模法人の場合で最低7万円ほどとなっています。
住民税の金額は自治体によって異なるので、各都道府県の税率に従って計算しましょう。
社会保険への強制加入
個人事業主の場合は従業員が5名以下であれば社会保険の加入が任意となりますが、法人の場合は社長1人であっても社会保険の加入が必須となります。
従業員を雇っている場合は従業員分の社会保険料も一部負担しなければならないため、キャッシュフローに悪影響を及ぼす可能性がある点に注意が必要です。
事務負担の増加
法人になると、会計処理が複雑になったり、作成書類が増えたりすることから、自力での処理が難しくなります。
そのため税理士や公認会計士などに委託するのが一般的ですが、顧問税理士報酬として毎年のコストが増える点はデメリットと言えるでしょう。
まとめ
- 年間課税所得が500万円を超える場合は、個人事業から法人成りすることを検討してみるのも1つ
- 法人なら役員報酬の支払いや投資による損益通算など、個人ではできない節税策を活用できる
- 法人成りは節税メリットが大きい反面、コストや手続き面でのデメリットもあるため、慎重に判断する必要がある
法人化することで節税メリットが大きくなるかどうかは、収益の安定性や家族構成などによって様々です。
適切なタイミングで法人化できるよう、まずは税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。