日本型オペレーティングリースは法人向けの節税対策として歴史の長いスキームです。
中でも船舶(タンカー)リースは大きな節税効果があり、現在まで高い人気を集めています。
とは言え、オペレーティングリースの取引は投資の1つであるため、効果を得るにはきちんと仕組みを知って運用する必要があるでしょう。
ここでは、船舶のオペレーティングリースの仕組みとメリット・デメリットについて解説しています。
航空機リースやコンテナリースと比較した場合の特徴などもまとめているので、船舶オペレーティングリースによる節税に興味のある方はぜひ参考にしてみてくださいね。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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船舶を対象にしたオペレーティングリース取引の仕組み
オペレーティングリースとは、リース資産(航空機・船舶・コンテナ)の購入に出資し、リース料・売却益によって収益を得る投資方法の1つです。
減価償却によって損金を計上し、リース期間満了時に出資額と同額程度の益金を得られるため、利益の繰り延べスキームとして利用されています。
まずは、船舶のオペレーティングリースの基本の仕組みと効果的な活用方法について詳しく見ていきましょう。
船舶リースにおけるお金の流れ
船舶のオペレーティングリース取引の主な仕組みは以下の通り。
- リース会社が匿名組合(ファンド)を立ち上げ、投資家(匿名)から船舶購入の出資を募る
- 投資家からの資金が不足している場合は金融機関から差額を借り入れる
- 出資金・借入金を使って船舶メーカーから船舶を購入する
- 購入した船舶で海運会社とリース契約を結び、リース会社がリース料を得る
- リース期間満了時に海運会社または市場が船舶を買い上げ、利益が投資家に分配される
リース期間満了時は海運会社がそのまま買い上げるケースがほとんどですが、そうでない場合は中古市場で売却されることになります。
ただし、買い上げない場合は船舶を新品の状態に戻すことを条件としている場合が多く、基本的には海運会社が買い上げるものと考えて良いでしょう。
生命保険を組み合わせた活用方法
生命保険への加入も企業の節税対策として効果的な方法です。
生命保険は毎年継続して保険料を支払う必要があるものの、オペレーティングリースと比較して少額から始めることができます。
生命保険保護機構によって万が一の場合の保証もされているので、リスクの少ない税金対策と言えるでしょう。
とは言え、節税効果という観点から見ると、投資額の大きいオペレーティングリースの方が当然高いです。
そのためどちらか一方だけでなく、オペレーティングリースと生命保険を組み合わせて対策をとるのがおすすめ。
例えば、その年にのみ発生した突発的な利益をオペレーティングリースで繰り延べ、他の部分を生命保険で繰り延べるという活用方法があります。
これにより、リース期間満了時に得られる収益と、期間中に生命保険料の支払いで発生した赤字(繰越欠損金)を相殺でき、大幅に課税額を減らすことができるのです。
また生命保険の解約返戻金をオペレーティングリースに回すという節税対策もあります。
このように、船舶リースと生命保険の組み合わせは法人税の節税に大変効果的なので、大きな利益が発生した場合は双方の活用を検討してみましょう。
船舶を利用した場合のメリット
オペレーティングリースで船舶リースに出資した場合、高い節税効果や利益を得られる可能性があります。
続いて、船舶のオペレーティングリースを利用した場合のメリットについて詳しく見ていきましょう。
高い節税効果を得られる
船舶のオペレーティングリースの大きなメリットは、損金算入率が大きく、高い節税効果を得られるという点です。
減価償却によって損金算入できるのがオペレーティングリースの特徴ですが、船舶リースではなんと出資額の70%~80%を初年度に算入できるケースも。
短期間でこれだけ大きな損金を計上できる金融商品は他になく、突発的な利益の繰り延べ方法として非常に効果的です。
支払いが1回で済む
生命保険や共済で節税対策を行う場合、毎年保険料を支払わなければならないというデメリットがあります。
次年度以降も安定して利益が出る場合は問題ありませんが、突発的な利益の場合は次年度以降の計画が難しくなるでしょう。
一方船舶のオペレーティングリースであれば一括で出資を行えるため、次年度以降のキャッシュを心配する必要はありません。
大きな利益をまとめて繰り延べたい場合に役立つ方法と言えます。
船舶を利用した場合のデメリットやリスク
船舶のオペレーティングリースは会社の節税対策として効果的ですが、その一方で投資面でのデメリットも。
ここからは、船舶のオペレーティングリースが持つデメリットやリスクについて解説していきます。
中途解約が原則できない
船舶リースをはじめとするオペレーティングリースでは、基本的に中途解約ができないことになっています。
海運会社が早期購入選択権を行使した場合を除き、原則リース期間満了時以外での資金移動はできないので注意しましょう。
船舶リースのリース期間は6年~10年程度となっており、中長期的な計画のもとで出資することをおすすめします。
また前述したように、中途解約が可能な生命保険などを組み合わせて活用するとリスクを抑えられます。
元本保証がない
船舶リースの場合、出資した金額と同等またはそれ以上の金額が必ず返還されるという保証がありません。
オペレーティングリースではあらかじめリース期間満了時の残存価格を査定してリース料が設定されますが、必ずこのシミュレーション通りにいくとは限らないからです。
特に船舶リースはバルチック海運指数(バルチック海運取引所による外航不定期船の運賃指数)で需要を判定するのですが、この数値は変動が激しいという特徴があります。
そのため、船舶を売却するタイミングで需要が下がっていると、元本割れを起こすリスクも。
もちろん、反対に需要が高まっているタイミングであれば大きな売却益につながる可能性も持っています。
それにリース先の海運会社が買い上げる場合は影響も少ないため、基本的には100%程度のお金が戻ってくると考えて良いでしょう。
円建て商品が少ない
船舶のオペレーティングリースはドル建ての商品が主流となっており、円建て商品が少ないというデメリットがあります。
ドル建て商品へ投資した場合、円安・円高といった為替リスクがある点に注意しましょう。
数は少ないものの円建て商品も存在するので、為替リスクを避けたい場合は円建ての船舶リースを選ぶことをおすすめします。
航空機・コンテナのオペレーティングリースと比較した場合
オペレーティングリースの物件には、船舶の他に航空機やコンテナもあります。
最後に、船舶リースと航空機リース・コンテナリースの違いと船舶リースが役立つシーンについて詳しく見ていきましょう。
航空機リースとの比較
航空機のオペレーティングリースは収益の安定性が高く、需要も下がりにくいことから人気の高いリース物件です。
船舶リースと同様、リース期間満了時には航空会社が航空機を買い上げるのが基本ですが、仮に中古市場で売却することになっても利益がでやすいのが特徴。
ただし、航空機リースはリース期間が8年~12年程度と船舶リースよりも長く、より長期的な運用計画が必要という注意点もあります。
船舶リースと使い分けながら、事業承継などのタイミングとリース期間満了のタイミングが合うように出資するのがおすすめです。
コンテナリースとの比較
コンテナのオペレーティングリースは船舶リースと比較して出資金額の最低ラインが低く、投資を行いやすい物件です。
船舶のように高い技術力を要するものではないため、海運会社ではなく中古市場へ流れた場合も大きな損失になりにくいというメリットがあります。
ただし、大きな損失が出ない反面、大きな利益も出にくい物件である点に注意しましょう。
またコンテナリースはリース期間が5年~7年と比較的短いことも特徴です。
生命保険ではなく、船舶リースとコンテナリースを組み合わせて利益の繰り延べを行うのも1つの活用方法となっています。
船舶リースはこんなケースで役立つ
リース期間で比較した場合に航空機リースとコンテナリースの間に位置する船舶リースは、様々なシーンで活用しやすい便利な物件です。
減価償却費の計上による利益の繰り延べはもちろん、事業承継にも有効なのが船舶のオペレーティングリースのメリット。
例えば損金算入があった年は資産が減少し、会社の評価が下がります。
会社の評価が下がるにともなって株価も低くなることで、贈与税・相続税を抑えた状態で自社株の譲渡を行うことができるのです。
オペレーティングリースによる損金は特別損失扱いになるため、会社の営業利益にキズを付けることなく株評価を下げられます。
更に、リース期間満了時に計上される多額の売却益を現社長の退職金の原資に当てることで、再度税金対策を行うことが可能となります。
このように、船舶リースの期間と事業承継のタイミングを合わせることで、より高い節税効果を得られるのが船舶リースのメリットです。
まとめ
- 船舶リースとは、リース用船舶の購入に投資してリース料・売却益を得る仕組みのこと
- 損金算入による高い節税効果を得られる他、一括の投資で完了するといったメリットがある
- 突発的な利益の繰り延べや事業承継における節税を行いたい場合は船舶リースがおすすめ
船舶のオペレーティングリースの仕組みを活用することで、利益対策や事業承継対策など様々なメリットを得ることができます。
自社に適した物件へ投資できるよう、リース期間や特徴など他の物件との違いをじっくり比較してみてくださいね。