企業を存続発展させるためには節税が最も重要といわれています。
節税スキームには多くの種類がありますが、最も節税効果が高いとして経営者から注目されているのがオペレーティングリースの航空機リースプラン。
航空機リースは出資額が1口3,000万~5,000万円と高額ですが、利益が数十億円出たときでも節税できるというメリットがあります。
ここでは、節税対策に悩む法人経営者のために航空機リースを上手に活用するためのポイントを紹介していきます。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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オペレーティングリースとは?節税目的で活用される理由
オペレーティングリース(オペリース)について簡単におさらいしてみましょう。オペレーティングリースとは、リース会社が購入した機械や設備、トラックなどを企業に貸し出し、金利を上乗せしたリース料を徴収して収益を得るものです。
この仕組みに「匿名組合」という契約形態を組み合わせて、法人投資家から出資を募り、航空機や船舶、海上輸送用コンテナなど高額の大型物件をメーカーから購入し、それをレッシー(航空会社や海運会社など)にリースすることで収益を得て、投資家に分配するという「投資商品」が生まれました。これを日本型オペレーティングリースといいます。
ちなみに「匿名組合」とは日本の商法535号に規定された契約形態のことで、出資者(匿名組合員)は社名を伏せたまま、競合会社に気づかれることなく投資ができるというメリットがあります。
この日本型オペレーティングリースは、投資商品としてよりも節税対策として活用されるもので、主に次のような節税効果が得られます。
減価償却費と利益を相殺して法人税を抑えられる
出資者は一括で資金を投入します(航空機の場合は1口3,000~5,000万円が相場)。その金額は「有価証券」または「出資金」の勘定科目で資産に計上します。
匿名組合からは出資額に応じたリース料が毎月支払われ、同時に航空機の減価償却費も分配されます。
減価償却費は損金として計上できるわけですが、オペレーティングリースの減価償却の計算は定率法が用いられており、取得当初の減価償却率が最も高く、2年目、3年目と減額されていきます。
航空機の場合、物件によっては初年度に出資金額の80%も減価償却費として計上することができます。そのため、法人が突発的に大きな営業利益を上げた年度や株価が上昇したときなどにオペレーティングリースに出資すれば、利益が出ても減価償却費と相殺できるので納める法人税が軽減されます。
このように、大きな損金を出して利益を繰り延べすることで節税できるという点がオペレーティングリースが活用される一番の理由です。
なお、オペレーティングリースには個人は投資することができず法人のみとされています。それは、リース料などの収入は個人の場合は「雑所得」となり、減価償却費を計上できないため節税効果はないからです。
事業承継で株式移転するときの節税にも有効
法人代表が後継者に株式を移転する際も、オペレーティングリースを活用することができます。法人代表が子息などに株式を承継する場合は、生前であれば贈与税が、相続の発生時であれば相続税がかかります。そうした法定の税金をより安く抑える方法が2通りあります。
① 株式は評価額が低ければ低いほど税額は安くなります。前述したように匿名組合に出資した当初は大きな損失が発生しますから、損金を作って一時的に自社株の評価を下げ、そのときに自社株を後継者に移行すれば税額を低くすることが可能です。
この方法は営業外での損失なので、営業利益に影響を及ぼすことはありません。ただし、この段階で法人代表は交代せず、リース期間満了まで待つようにします。
② もう1つはリース期間が満了になってから行う方法です。満了時には匿名組合が物件を売却して収益を投資家に分配します。その分配金を法人代表の退職金に充当することで事業継承の完了とします。分配金は収益として計上しますが、退職金を費用として計上するので相殺することができます。
なお、リース期間は10年前後と長期にわたるため、この方法は事業継承対策として用いるにはタイミング的に難しい場合もあります。
節税効果が最も高いのは航空機リースプラン
オペレーティングリースの投資対象は航空機リース、船舶リース、コンテナリースの3種類です。
匿名組合が物件を貸し出すときはリース料の総額を物件の購入金額より安めに設定し、リース期間が満了となった時点で航空会社や海運会社にそのまま買い取ってもらうか、中古市場で売却して購入金額の全額を回収するという仕組みになっています。
リース期間はケースバイケースですが、7~10年です。したがって、10年近く使用しても資産価値のある物件であることが条件となります。その点、航空機は船舶などと違って徹底的にメンテナンスが施されるので価値が大きく下がることはありません。
また、飛行機は数十億円もする超高額資産であるうえ、一機購入すればすむというものではなく、継続的に購入する必要があります。
航空会社も巨額の借入金で負債を増やすよりオペレーティングリースを利用して満了時に買い取る方法を選ぶところが多くなり、現在使用されている航空機の半数近くはリース会社が提供した物件といわれています。
こうした現状を背景に、法人投資家の間でも航空機リースプランは節税効果が最も高いとして注目されています。
オペレーティングリースの仕組みから考えられる運用リスク
ここまで節税スキームについて見てきましたが、オペレーティングリースは投資商品ですからリスクが伴います。航空機リースの場合、これだけは押さえておきたいというリスクとして以下のようなことがあげられます。
リスク① 航空会社が経営危機に陥った場合
匿名組合の中には最初の契約時に「満了時に買い上げをしない場合は、新品同様の状態にして戻すこと」と条件をつけているところもあり、ほとんどの航空会社が買い取っています。
しかし、かつて経営破綻に陥ったJALのようなケースもあります。もし貸し出し先の航空会社が倒産してしまえば、運営を肩代わりする第三者が現れない限り、航空機を買い取ってもらうことは不可能です。
リスク② 航空機事故で損害賠償が発生した場合
リース期間中に航空機のトラブルで事故が発生し、旅客などに損害を与えてしまった場合は、航空機の所有者である匿名組合に賠償責任があるとみなされることがあります。
損害保険に加入していても賠償額の大きさによっては出資者に追加出資を求めることがあります。
リスク③ 航空機が事故で破損した場合
墜落事故などで航空機が破損した場合は、匿名組合が加入している損害保険で賠償してもらえます。
しかし、その保険金が出資者に分配されることによってオペレーティングリースも終了となります。
このことは益金が予定より早く発生することを意味するため、利益を繰り延べることで得られる節税効果がなくなってしまいます。こうしたリスクもあることを心得ておきましょう。
リスク④ 為替リスクは避けられない
航空機はダグラス社など海外のメーカーから購入しているので匿名組合は外貨で支払います。
オペレーティングリースを組むときはその時の為替に基づきますから、満了になって売却する際に為替変動で円高が進んでしまった場合は収益が減少します。
どの投資商品でも同じですが、出資したお金が100%戻ってくる保証はないのです。
リスク⑤ 中途解約ができない
オペレーティングリースは途中解約が認められません。一度出資した金額はどんな事情があるにせよキャッシュアウトすることができないため、事業の運転資金が行き詰って赤字転落ということもあり得ます。
万一、倒産してしまった場合も中途解約はできないので、法人の口座を残しておいてそこへ満了時の分配金を振り込んでもらうことになります。クーリングオフもオペレーティングリースにおいては適用されません。
リスク⑥ 税制改正のリスクもある
日本型オペレーティングリースの原型といわれるのがレバレッジドリースです。これは出資額以上に損金を計上できる仕組みで、1985年にオリックス(旧オリエントリース)と日本郵政グループ(旧日本貨物航空)が貨物航空機のリースで交わした契約が始まりとされています。
しかし、2005年に税制が改正され、今のオペレーティングリースに切り替わったとされています。そうした経緯もあるので、オペレーティングリースも今は認められていても廃止になるリスクが伴うことも視野に入れておきましょう。
リスク回避のために確認しておきたいポイント
では、航空機リースへの投資を検討する際は、リスクを回避するためにどのような点に留意すべきか、チェックポイントを見ていきましょう。
ポイント1.航空会社の経営状況
何よりも大事なのは航空会社の経営が安定していることです。業績悪化でリース料が滞るようになったといった事態を避けるために、投資を検討する段階で匿名組合に確認するようにします。航空会社は上場企業で、知名度より信用や実績で評価されているところなら安心です。
ポイント2.物件の購入価格・残存価格
オペレーティングリースでは、リース期間満了時の物件の残存価格(中古価格)を第三者の鑑定評価に基づいて設定し、購入価額から残存価格を差し引いてリース料の支払い総額を決定することになっています。投資しようとする匿名組合ではそれがきちんと実施されているかを確認することも大切です。
ポイント3.リース期間
オペレーティングリースは途中解約できないので、出資者にとってリース期間はできるだけ短いほうがよいのですが、6年以下の短いものは中古の航空機を利用したプランと考えられます。
中古の場合は、満了時に航空会社で買い取ることを前提としていないため中古市場で売却することになりますが、新型のような売却益はとうてい望めません。航空機の一般的なリース期間は10年です。節税の観点からするとリース期間は10年以下、7~8年ならなお有利といえます。
ポイント4.リース会社の信用度
匿名組合を組成しているのはリース会社やアセットマネジメント会社などです。こうした会社が万一経営破綻に陥ってしまった場合は、匿名組合を存続させるために追加出資を求められることもあります。
航空会社の倒産に比較すれば損害は小さくてすみますが、自社の損益に影響しますから事前にリース会社などの信用・実績も確認するようにしましょう。
オペレーティングリースは弁護士や税理士など専門家への相談も重要
オペレーティングリースに投資するときは、匿名組合と契約を締結します。その際は出資金は1口いくらか、損益の分配はどのように行われるのか、満了時には物件を必ず買い取ってもらえるのかといったことをきちんと把握しておくことが大切です。
取り交わす契約書には金融商品取引法に定められた事柄が記載されています。投資は初めてという人は重要事項を見落としたりするのを防ぐため、弁護士などの専門家に内容をチェックしてもらうことをおすすめします。
法律のプロとパイプができれば、万一匿名組合とトラブルに発展した場合でも力になってもらえるでしょう。
実際に航空機リースに投資する場合、仮に出資金が1億円で減価償却率が80%とすると、残りの損金にできない2,000万円に対して法人税が課せられます。法人税率を30%とすると、ざっと600万円近く納めなければなりません。
オペレーティングリースは法人保険などと違って一括払いなので翌年からは支払う必要がありませんが、初年度は1億円を出資し、法人税も支払うことになります。
このように、大きな節税効果が期待できるものの当初は出ていく金額も大きく、途中解約もできませんから、運営に支障をきたすことのないよう税理士や公認会計士に相談することが大切です。
まとめ
オペレーティングリースは投資商品ですが、目的はお金を儲けることではなく「節税」です。効率よく節税するには多くの情報を集めて比較検討すべきです。しかし、オペレーティングリースに関する情報誌やwebサイトは少なく、セミナーなどもあまり開催されていません。
これからオペレーティングリースを活用したいという方は、独断で進めるのはリスクが大きいので、必ず専門家にサポートを依頼するようにしましょう。