現在の会計基準では、リース取引を「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分けています。
ファイナンスリースは、リース期間途中においては解約不能となっている契約です。
そのため、会計上は売買取引とみなして仕訳処理を行います。
一方のオペレーティングリースは、賃貸借取引(≒レンタル)として会計処理を行うこととなっています。
貸手側がリース資産を所有する仕組みを使い、節税スキームとして貸手法人に投資する会社も少なくありません。
では、そんなオペレーティングリース取引は中途解約できるのでしょうか?
今回の記事では、主に貸手側の視点から、オペレーティングリースの解約可否や、解約した場合の仕訳や会計処理について解説します。
特に、オペレーティングリース取引の中途解約を検討している貸手企業は必見です。
証券外務員 / ファミリービジネスアドバイザー
この記事の監修担当者:櫻井浩介
日系大手証券会社を経て、顧客第一主義を極めるために2018年に独立。高所得法人やそのオーナー一族をクライアントに持つ。
主な業務は、資産管理。また、弁護士、税理士、会計士などのプロフェッショナルと協働して、様々な事業承継案件や事業再生案件等、クライアントの持続的発展のためのサポートを多岐に渡っておこなっている。
証券会社時代の経験に基づく資産運用、節税対策などの幅広い経験と知識に裏付けられた誠実なアドバイスは、資金面に悩む顧客から絶大な信頼を得ている。
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オペレーティングリース取引は期間途中で解約できるのか?
オペレーティングリース取引は、貸手側が物件や航空機などの資産を借手側に貸すことで成り立っています。
ですが、貸手・借手双方の都合で、期間途中で解約したいケースもあるでしょう。
では、オペレーティングリースは期間途中で解約できるのでしょうか?
この章では、オペレーティングリースの期間途中での解約可否について、理論と実務双方の視点から解説します。
理論上は中途解約できる
そもそもオペレーティングリース取引の定義は、「ファイナンスリース以外の取引」となっています。
言い換えると、「中途解約ができる」または「フルペイアウトの要件を満たさない」のいずれか(または双方)の要件を満たした場合、オペレーティングリース取引となります。
つまり理論上は、オペレーティングリース取引では期間途中での解約が可能となります。
実務的には中途解約に制限が設定されるケースが多い
ただし実務的には、問題なく中途解約できるケースはほぼありません。
一定期間のあいだ中途解約ができなかったり、中途解約時に違約金の支払いが発生する契約がほとんどです。
というのも、何の制限もなしにオペレーティングリース契約を行うと、突然借手が自己都合で契約を止める可能性があるためです。
些細な理由で解約されたり、解約時に違約金をもらえないと、貸手はまったく儲からずビジネスとして成立しません。
そこで貸手の大半は、解約不能の期間を設定したり、解約金を設定した上で、オペレーティングリースの取引を行うわけです。
オペレーティングリースにおける注記の取扱い
解約不能のオペレーティングリース取引に関しては、貸借対照表を作成する日付から数えて1年以内のリース期間に関するものと、1年を超えるリース期間に関するものとに分けて注記することになっています。
なお、一部分の期間のみ契約解除できないオペレーティングリースに関しても、解約不能のリース取引として取扱います。
この場合、解除できない期間に関する未経過リース料を注記します。
中途解約した場合の仕訳(違約金なし)
前述したとおりオペレーティングリース取引の大半は、ある期間まで解約できなかったり、解約時に支払われる予定であったリース料を払うことで解約に至ります。
したがって、解約時には貸手・借手双方で仕訳処理が必要となります。
ただし、違約金の支払い有無があるかどうかで、具体的な仕訳内容は若干異なります。
この章では、違約金が設定されていない場合について、オペレーティングリースの解約時に行う仕訳を解説します。
借手側の仕訳
一般的にオペレーティングリースを解約した場合、本来リース期間中に支払う予定であったリース料を一括で支払うことになります。
借手側の会社は、払う予定であったリース料を一括で支払い、それを「リース解約損」として計上します。
なおリース解約損には、消費税が課税されるのが一般的です。
したがって、リース解約損の金額に消費税率を掛け合わせることで、仮払消費税の金額を算出します。
仮払消費税はリース解約損と同様に借方に仕訳し、貸方には現金や預金を仕訳します。
たとえば未払いリース料(リース解約損)が500千円、仮払消費税が50千円の場合、借手側は下記のような仕訳を行います。
(借方) リース解約損 500千円 | (貸方) 現金 550千円 |
(借方) 仮払消費税 50千円 |
貸手側の仕訳
借手側の仕訳処理を知っておけば、貸手側の仕訳に関する理解もスムーズに済みます。
借手が一括で未払いのリース料を支払うということは、貸手側は一括でリース料を受け取ることを意味します。
したがって、「受取リース料」や「売上」、「雑収入」などの勘定科目を用い、収益を計上するのが良いと考えられます。
たとえば現金で550千円(税込)のリース料を受け取った場合、下記のような仕訳となります。
(借方) 現金 550千円 | (貸方) 雑収入 550千円 |
なお税抜経理方式を採用している場合は、収益と消費税を切り分けて仕訳処理を行いましょう。
具体的にどの勘定科目を用いるかは、ケースによってまちまちです。
実際に会計処理を行うときは、公認会計士や税理士に相談した上で行うようにしましょう。
中途解約した場合の仕訳(違約金あり)
次に、違約金が設定されている場合について、オペレーティングリース取引の解約時に必要な仕訳を説明します。
借手側の仕訳
オペレーティングリースの契約内容次第では、未払いのリース料とは別に、損害賠償的な意味合いで違約金の支払いが生じる場合もあります。
そうした違約金が発生した場合には、雑損失や損害賠償金などの勘定科目を用いて仕訳するのが一般的です。
たとえばリース解約損が500千円、違約金が100千円発生した場合、借手会社が行う仕訳は以下の通りです。
違約金がない場合とは違い、新たに雑損失の勘定科目が加わっています。
(借方) リース解約損 500千円 | (貸方) 現金 650千円 |
(借方) 仮払消費税 50千円 | |
(借方) 雑損失 100千円 |
貸手側の仕訳
一方で貸手側では、受け取った違約金を雑収入などの勘定科目を使って仕訳処理するのが一般的です。
たとえば現金で550千円(税込)のリース料と100千円の違約金をそれぞれ受け取った場合、下記のような仕訳が考えられます。
(借方) 現金 650千円 | (貸方) 雑収入 650千円 |
こちらも複数の会計処理の方法が考えられるため、実務で仕訳が必要となった場合には、税理士などのプロに相談するようにしましょう。
オペレーティングリースの解約が会計に与える影響
オペレーティングリースを解約した場合、貸手・借手の会計にも大きな影響を与えます。
この章では、貸手と借手双方の視点から、オペレーティングリースの解約で及ぶ影響をお伝えします。
貸手の会計に与える影響
オペレーティングリースの解約で受け取った収益は、貸手から見ると臨時かつ一度のみの収益となります。
したがって、会計上は「特別利益」が増加したとみなすのが一般的です。
金額が小さいケースなどでは、「営業外収益」として計上することもあります。
本来長い期間で少しずつ受け取るはずだった利益を一度に受け取るため、その年度の利益額は大きく増えることになります。
ただし、次年度以降は受け取れるはずの利益を受け取れないため、その分だけ利益が減少する可能性は十分考えられるでしょう。
いずれにせよ、オペレーティングリース取引が中途解約となった場合、損益計算書上の利益は一時的に増加します。
借手の会計に与える影響
一方で借手は、オペレーティングリースの解約時に、残っているリース料や違約金を一度に支払うことになります。
したがって、会計上は「特別損失」または「営業外費用」が増加したとみなします。
本来長い期間で少しずつ支払うはずだった費用を一度に支払うため、その年度の利益額は大きく減少する可能性が高いです。
ただし、次年度以降に支払う予定であったリース料は無くなるため、次年度以降の利益は従来の想定よりも多くなるでしょう。
つまりオペレーティングリースの解約により、借手の利益は一時的に大きく減少することになります。
まとめ
今回お伝えした通りオペレーティングリース取引では、貸手・借手双方が都合次第で、契約を途中で解約できます。
ただしファイナンスリースと同様に、オペレーティングリース契約を期間途中で解約すると、多大な違約金や未払いリース料の支払いが発生することが多いです。
したがって、解約時には通常時の賃貸借処理とは異なる会計処理が求められます。
通常の賃貸借契約と同様の会計処理を行えるメリットを持つオペレーティングリースですが、解約すると複雑な仕訳や会計処理が求められるので注意が必要です。