企業の資金状況の把握に役立つ「キャッシュフロー計算書」ですが、オペレーティングリース取引がどのように分類されるのか、よく分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、キャッシュフロー計算書の概要と区分、また各リース取引の取り扱いについて解説します。
IFRS16号の適用に伴うキャッシュフロー計算書への影響などもまとめているので、オペレーティングリース取引を行っている企業様はぜひ参考にしてみてください。
生命保険協会認定FP(TLC) / 相続診断士 / MDRT成績資格会員(COT)
この記事の監修担当者:高橋進
新卒で大手百貨店に入社。食料品部では催担当、労働組合では執行役員を務め、接客販売と社内改善に貢献。グッドサービス賞受賞。
その後2013年、外資系大手生命保険よりヘッドハンティングを受け転職。各コンテストで入賞を果たし、個人保険全国3200人中4位特別表彰など業績を拡大。2015年大手上場金融代理店に入社。
MDRT、COT成績資格会員と実績を伸ばし、ワンストップで顧客のための金融サービスを展開する独立型資産形成アドバイザーとして、マネーセミナー講師をしながら、個人から法人、幅広く提案している。その後、非金融業界の会社経営などにも参画し、幅広い知識と経験を持つ。
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キャッシュフロー計算書の概要
まずは基本知識として、キャッシュフロー計算書の役割と区分について確認していきましょう。
キャッシュフローとは
キャッシュフローとは、一定の会計期間(例:1年間)における“お金の流れ”のことです。
企業会計では、お金が入ってくることをキャッシュイン、お金が出ていくことをキャッシュアウトといいます。
そして、キャッシュインとキャッシュアウトがそれぞれいくら生じたか、またどのタイミングで生じたかといった情報を示したものが「キャッシュフロー計算書」です。
キャッシュフロー計算書の作成義務があるのは大規模法人のみで、中小企業や個人事業主は任意となります。
とは言え、キャッシュフロー計算書は企業の資金状況を把握する際に大変役立つ情報であるため、義務のない企業であっても作成しておいた方が良いでしょう。
キャッシュフロー計算書の区分
キャッシュフロー計算書は、単にキャッシュ(現金)の変動をまとめるだけでなく、営業取引・投資取引・財務取引の3つの区分に分けて記録する仕組みとなっています。
区分ごとにキャッシュの変動を把握できるようにすることで、キャッシュが増減した理由がどこにあるのかを明確化できるためです。
各区分の概要と、該当する取引の例は以下の通りです。
区分 | 概要 | 取引例 |
---|---|---|
営業取引 | 事業の営業活動によるもの | 現金での売上取引・現金での仕入取引・売掛金の現金回収・買掛金の現金支出・現金での経費支出・支払利息 など |
投資取引 | 投資によるもの | 有価証券の売却による現金収入・有価証券の取得による現金支出・貸付金の現金回収・有形固定資産の売却による現金収入 など |
財務取引 | 資金調達によるもの | 借入金による現金収入・株式発行による現金収入・社債償還による現金支出・配当金の支払いによる現金支出 など |
また営業活動によるキャッシュフローから投資活動によるキャッシュフローを差し引くことで、事業活動・設備投資といった事業運営資金に含まれない「フリーキャッシュフロー」を把握できます。
フリーキャッシュフローは企業の価値を判断する指標にもなるので、合わせて算出しておくと良いでしょう。
キャッシュフロー計算書におけるリース取引の取り扱い
リース取引には、ファイナンスリースとオペレーティングリースの大きく2種類があります。
続いて、キャッシュフロー計算書におけるファイナンスリース・オペレーティングリースの取り扱いについて見ていきましょう。
また借手側だけでなく、貸手側の表示方法も記載しています。
所有権移転ファイナンスリース取引
中途解約不可・フルペイアウト方式のリース取引のうち、期間終了後に物件の所有権が借手側に移転する契約を「所有権移転ファイナンスリース」といいます。
この場合は実質的に固定資産を分割で購入しているのと同じ状態であることから、売買取引の処理が必要です。
元本返済部分の支払いは財務活動によるキャッシュフロー、利息部分については支払利息の表示区分に沿ってキャッシュフロー計算書に記載します。(区分が明確でない場合は支払リース料として総額を財務活動によるキャッシュフローへ記載)
所有権移転外ファイナンスリース取引
中途解約不可・フルペイアウト方式のリース取引のうち、期間終了後に物件の返却が必要となる契約を「所有権移転外ファイナンスリース」といいます。
この場合は賃貸借取引という形での処理が可能であるため、支払リース料を営業活動によるキャッシュフローとして処理しましょう。
オペレーティングリース取引
上記のいずれのリース取引にも該当しない契約を「オペレーティングリース取引」といいます。
オペレーティングリース取引は所有権移転外ファイナンスリースと同様、期間終了後に物件の返却が必要となることから、賃貸借取引としての処理が可能です。
そのためオペレーティングリース取引にかかる支出は、営業活動によるキャッシュフローとして賃借料などの勘定科目で処理を行います。
売手(貸手)側のリース取引
売り手側については、ファイナンスリース・オペレーティングリースにかかわらず、リース取引の事業が主たる事業であるかどうかによって受取リース料の処理が異なります。
リース業が主たる事業である場合は営業活動によるキャッシュフロー、そうでない場合は投資活動によるキャッシュフローとして処理を行いましょう。
IFRS新リース基準への改定でオペレーティングリースの扱いはどうなる?
ここまで解説した内容は、現時点で日本の会計基準を採用している企業に対するものとなります。
国際的な会計基準(IFRS)を採用している企業の場合は、IFRS16号で行われたルール変更に沿ってキャッシュフロー計算書を作成しなければなりません。
最後に、IFRS16号の概要と、IFRS16号がキャッシュフロー計算書に与える影響について見ていきましょう。
IFRS16号の概要
IFRS16号は、2020年3月から強制適用となった国際財務報告基準の新基準となります。
IFRS16号ではファイナンスリースとオペレーティングリースという区分が廃止され、原則全てのリース取引でオンバランス処理(売買取引)を行うこととなりました。
これにより、今までオフバランス処理していた取引(オペレーティングリース取引など)がオンバランス処理に変わり、貸借対照表上の総資産・総負債が大幅に増加する可能性が出てきたのです。
また単純なリースの契約期間だけでなく、契約延長・解除オプションの期間も含めた期間をリース期間として設定するなど、リース期間の考え方にも変更がありました。
現在の日本基準とIFRS16号の違いをまとめると以下のようになります。
現在の日本基準 | 新リース会計基準(IFRS16号) | |
---|---|---|
オンバランス処理が必要なリース | 中途解約不能・フルペイアウト判定/少額リース(1契約300万以下)/短期リース(1年以下) | 少額リース(1資産5,000米ドル以下)/短期リース(1年以下) |
リース期間の算定方法 | 契約期間と同等 | 契約期間+延長・解約オプション |
キャッシュフロー計算書への影響
IFRS16号は会計処理に対する内容であるため、これによってキャッシュの流入・流出が直接変化するわけではありませんが、キャッシュフロー計算書上の表示区分にはいくつかの変更点があります。
IFRS16号におけるリース料の区分は以下の通りです。
- リース負債の元本返済部分にかかる金額については、財務活動として分類
- リース負債の支払利息については、他の形態の融資にかかる支払利息と同じ分類(財務活動または営業活動のいずれか)
- オフバランス取引(短期および少額資産のリース)にかかる金額、またリース負債に含めなかった変動支払については、営業活動として分類
オペレーティングリースと所有権移転外ファイナンスリースはもともとオフバランス取引の一部でしたが、IFRS16号ではオンバランス取引となるため財務活動としての処理が必要です。
なお短期リースや少額リースといった一部のリース取引については、引き続き営業活動によるキャッシュフローとして処理することができます。
新基準適用に伴うオペレーティングリースの処理方法まとめ
- キャッシュフロー計算書とは、キャッシュイン・キャッシュアウトの変動を明らかにするための書類
- 日本基準では、オペレーティングリースにかかる支出を営業活動によるキャッシュフローとして処理する
- IFRS16号では、オペレーティングリースもオンバランス取引となるため、財務活動によるキャッシュフローとして処理が必要
キャッシュフロー計算書を用いてお金の出入りを管理することで、黒字倒産などの予防にも繋がります。
IFRS16号によってオペレーティングリースなど一部リース取引の取り扱いが変わっているため、キャッシュフロー計算書を作成する際は区分間違いがないよう注意しましょう。