法人税の節税対策にメリットのある手法として日本型オペレーティングリースのスキームがあります。
減価償却によって多額の損金を計上することで利益の繰り延べを実現する投資方法ですが、利用するにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。
ここでは、日本型オペレーティングリースをテーマに、概要と取引の要件について解説しています。
より高い節税効果を得るためのおすすめ活用方法も紹介しているので、会社の税金対策でお悩みの方はぜひ参考にしてみてくださいね。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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オペレーティングリース取引の判定要件
日本型オペレーティングリースとは、従来のオペレーティングリース取引に匿名組合(ファンド)の仕組みを組み合わせた投資商品の1つです。
まずは、日本型オペレーティングリースの元となる「オペレーティングリース取引」の要件と、よく似た契約の「ファイナンスリース取引」の要件について解説していきます。
オペレーティングリース取引とは
リース契約には大きく「オペレーティングリース取引」と「ファイナンスリース取引」の2種類があり、オペレーティングリース取引と判定されるための要件は以下の通り。
- 要件1:リース期間中の解約は原則不能(物件により異なる)
- 要件2:ノンフルペイアウト方式
ノンフルペイアウト方式とは、リース期間満了時の残存価格を査定し、購入費用から残存価格を引いた金額をもとにリース料金を組む方法のことです。
回収したリース料金の合計が購入費用を下回ることから、ノンフルペイアウトと呼ばれます。
ただし期間終了後の売却時にキャピタルゲイン(売買差益)を得られる可能性があり、実際には費用より利益の方が大きくなるケースの多い取引です。
ファイナンスリースの判定基準とオペレーティングリースとの違い
オペレーティングリース取引を解説する際によく登場するのがファイナンスリース取引です。
ファイナンスリース取引となる契約の要件は以下の通り。
- 要件1:リース期間中の解約不能
- 要件2:フルペイアウト方式
ファイナンスリース取引はオペレーティングリース取引と異なり、リース料のみで購入費用の全額を回収できるよう計算されています。
また、リース期間満了時に所有権が借手に移転する契約を「所有権移転ファイナンスリース」、この要件に該当しない契約を「所有権移転外ファイナンスリース」といいます。
日本型オペレーティングリースを利用するための要件
一般的なオペレーティングリース取引の要件が分かったところで、日本型オペレーティングリースの概要を見ていきましょう。
日本型オペレーティングリースとは、航空機・船舶・コンテナといった高額な商業用リース資産の購入費用に企業の経営者が出資できる仕組みのことです。
保険商品と違い、日本型オペレーティングリースでは投資の初年度~2・3年目までに出資額の100%を減価償却によって損金算入できるのが特徴。
そのため、突発的に発生した利益の繰り延べ策として多くの企業で利用されている方法です。
各リース資産の最低出資額やリース期間は以下の通り。
航空機 | 船舶 | コンテナ | |
---|---|---|---|
最低出資額 | 3,000万円 | 3,000万円 | 1,000万円 |
リース期間 | 8年~12年 | 6年~10年 | 5年~7年 |
需要判定の指標 | 世界人口 | バルチック海運指数 | GDP成長率・交易係数 |
価値の変動 | 需要が高いため比較的安定している | 変動が激しい | 技術革新が起こらないため下落しにくい |
上記を踏まえ、日本型オペレーティングリースを利用するには以下の要件を満たす必要があるでしょう。
- 要件1:最低1,000万円以上の余剰資金がある
- 要件2:元本割れしても耐えうる経済的余裕がある
日本型オペレーティングリースはあくまで投資商品の1つであり、状況によって利益を生むことも損失を被ることもあります。
出資額も高額になるため、普段から利用する投資というよりも、突発的な利益の繰り延べとして行う投資と考えると良いでしょう。
また日本型オペレーティングリースは原則的に中途解約ができない商品です。
リース期間中は出資した資金の移動ができない点を理解し、長期的な見通しを立てたうえで投資するかどうかを判断することをオススメします。
出資を行った場合の会計・税務処理
日本型オペレーティングリースへの投資を行った場合、この支出が会計上および税務上でどのような取り扱いになるのかを見ていきましょう。
会計上の仕訳
日本型オペレーティングリースにおける出資金は、金融商品取引法において有価証券という扱いになります。
つまり、物件購入にかかる固定資産や金融機関からの借入金は匿名組合の資産・負債となり、受取リース料や減価償却費は匿名組合の収益・負債となるのです。
会計上の仕訳については、出資した金額は資産、分配金は法人の損益として考えます。
税務上の処理
匿名組合には「民法上の任意組合」と「商法上の匿名組合」の2種類があります。
日本型オペレーティングリースは商法上の匿名組合に該当するため、基本的に事業で発生した損益の帰属先はリース会社です。
ただし、匿名組合契約による分配金は組合員(投資者)の法人の損益として処理することになります。
また税務上の処理においては、投資額を上回る損金は計上できないという点に注意が必要です。
以前は投資額を上回る損金の計上が可能な商品(レバレッジドリース)がありましたが、2005年度の税制改正により制限が設けられました。
現在は投資額を上回る損金を計上した場合、法人税申告書にて加算調整が行われます。
高い節税効果を得るための活用方法
日本型オペレーティングリースは計上できる損金の額が大きいことから、突発的な利益を繰り延べて節税を行いたい経営者の間で人気の投資方法です。
最後に、日本型オペレーティングリースを活用してより効果的に節税を行うためのポイントを紹介していきます。
複数の物件に投資してリース期間を分散させる
日本型オペレーティングリースは原則期間中の解約ができません。
そのため、資金移動ができないリスクを考慮し、契約期間が異なる複数の物件へ投資を行うのも1つです。
航空機とコンテナ、船舶とコンテナのように長期の物件+短期の物件で組み合わせることで、計画的に資金の運用ができるでしょう。
またリスク分散を図る意味でも、複数の物件へ振り分けるのはおすすめです。
日本型オペレーティングリースは保険商品に対する保護機構のような機関がなく、万が一リース先やリース会社が倒産したとしても保証を受けることができません。
シミュレーション通りの分配金が得られない可能性も踏まえ、複数の物件へ投資することを検討してみましょう。
中途解約が可能な生命保険との組み合わせもおすすめです。
事業継承における節税効果
日本型オペレーティングリースは突発的な利益の繰り延べを目的に利用されることが多いですが、実は事業承継の際の節税にも効果的です。
多額の損金算入によって会社の資産が減少すると、それにともなって会社の株評価も下がります。
このタイミングで自社株の譲渡を行うことで、贈与税・相続税を抑えることができるのです。
更にリース期間が終了した物件については、リース先が買い上げるか、もしくは中古市場で販売されます。
この益金を現社長の退職金の原資に当てることで、退職費用と相殺でき再度節税に役立てることが可能となります。
日本型オペレーティングリースの要件まとめ
- オペレーティングリースは原則中途解約不可、ノンフルペイアウト方式の要件に該当する取引を指す
- 日本型オペレーティングリースへ投資する際は十分な余剰資金が必要
- 利益の繰り延べや事業承継の際の節税に効果的な手法である
日本型オペレーティングリースは会社の節税対策に有効的な手法ですが、資金移動ができなくなるといった理由から利用の際は十分な経済的余裕が必要です。
投資要件に該当しているか分からない、また投資する物件選びでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。