法人企業の場合、年間を通して得た所得に対する法人税を納めなければなりません。
例年と比較して大きな利益が出た年は、その分支払う税金も増えてしまうため、正しく節税して会社により多くのお金が残るよう対策が必要です。
この記事では、利益が出過ぎたときに活用できるおすすめの駆け込み節税策を紹介しています。
普段から取り入れられる節税策やNG手法などもまとめているので、法人税の節税にお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。
証券外務員 / ファミリービジネスアドバイザー
この記事の監修担当者:櫻井浩介
日系大手証券会社を経て、顧客第一主義を極めるために2018年に独立。高所得法人やそのオーナー一族をクライアントに持つ。
主な業務は、資産管理。また、弁護士、税理士、会計士などのプロフェッショナルと協働して、様々な事業承継案件や事業再生案件等、クライアントの持続的発展のためのサポートを多岐に渡っておこなっている。
証券会社時代の経験に基づく資産運用、節税対策などの幅広い経験と知識に裏付けられた誠実なアドバイスは、資金面に悩む顧客から絶大な信頼を得ている。
個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。
利益が出過ぎたときに活用したい法人向けの駆け込み節税策
決算前に多額の利益が計上された場合は、賞与の支給や経費の追加計上によって法人税を節税することができます。
まずは、駆け込み的に利用できるおすすめの法人向け節税対策について詳しく見ていきましょう。
決算賞与の支給
決算賞与とは、決算時に従業員に対して賞与を支給することをいいます。
支給するタイミングは決算前・決算後のどちらでも良く、決算後の支払いになった場合でも当期の損金として計上することが可能です。
なお、決算賞与を損金計上するには、決算期末までに支給額を従業員へ通知し、遅くとも決算期末から1ヶ月以内に賞与を支給する必要があります。
この方法は従業員のモチベーションアップにもつながるため、駆け込みの利益対策としておすすめと言えるでしょう。
固定資産・在庫の削減
不要となった固定資産については、売却・廃棄を行うことで、それぞれ売却損・除却損として経費計上できます。
ただし廃棄の場合は税務調査が入りやすいため、廃棄したことを証明する資料を残しておくようにしましょう。
また固定資産の廃棄にかかるコストをすぐに調達することが難しい場合は、固定資産が手元に残っている状態で除却損の計上ができる「有姿除却」による節税がおすすめ。
こちらは該当の固定資産がすでに使われておらず、今後も使うことがないと認められた場合に限り適用できる経費となるので、通常の除却と同様内容証明できる資料が必要です。
家賃や備品購入費用の前払い
継続的にサービスを受けるための支払いで、かつ支払った日から1年以内にそのサービスの提供を受ける場合、かかる費用の全額を「短期前払費用」として損金算入できます。
オフィスの賃料や保険料などがこれに該当します。
ただし、前払いによる節税効果が得られるのは最初の1年だけであるため、利益対策としては有効ですが、永続的な節税効果はない点に注意が必要です。
また中小企業の場合、30万円以下の減価償却資産(少額減価償却資産)の全額損金算入が認められています。
オフィス用品や文房具など、近い将来に必要となる備品を先に購入することで利益対策が可能となります。
共済制度への加入
中小企業や個人事業主の場合は、独立行政法人「勤労者退職金共済機構」「中小企業退職金共済事業本部」が運営する共済制度への加入もおすすめ。
共済制度は退職時に支払うお金の積み立てができる制度のことで、会社の役員を除く全従業員を加入させることができます。
共済への掛け金は全額経費計上ができるため、法人の利益対策として効果的です。
普段から備えておきたい節税対策
事前に役員報酬や旅費規定などを見直しておくことで、より多くの利益対策を活用できるようになります。
続いて、突発的な利益による税金の増加で悩まないために、普段から実施できる法人向け節税策をチェックしていきましょう。
役員報酬の見直し
法人税の節税対策として定番の手法が“役員報酬の見直し”です。
役員報酬とはその名の通り会社の役員に対して支給される報酬のことで、以下のどちらかの基準を満たせば経費としての計上が認められます。
定期同額給与
毎月一定額の役員報酬を支払うことを定期同額給与といいます。
これは従業員と同じように毎月決まった金額を支給する仕組みのことで、永続的な節税効果が期待できる方法です。
ただし、利益が多く出た月だけ報酬額を増やすといった場合は定期同額給与が認められず、税制上のメリットが得られなくなってしまうので注意。
また給与改定は事業年度開始の属する会計期間開始日から3カ月以内に行う必要があるため、多額の利益が見込まれる場合には早めの対応が必要となります。
事前確定届出給与
役員に対して所定のタイミングで所定の報酬を支払うことを定め、事前に税務署に届け出る制度のことを事前確定届出給与といいます。
定額支給でなくとも、あらかじめ取り決められた報酬であれば経費として認めるというもので、非常勤の役員がいる場合などに活用される制度です。
ただしこちらは事業年度ごとに税務署への届け出が必要なうえ、会社が赤字の場合でも支給しなければならないため、定期同額給与と比較して利用率は低いといえます。
出張旅費規定の整備
出張旅費規定とは、出張にかかる交通費・宿泊費・その他費用に対する取り扱いを定めた規定のことで、以下のような項目の記載が必要です。
- 出張旅費規程の目的
- 適用範囲
- 出張の定義
- 費用の種類と支給額
- 申請や清算などの手続き方法
出張旅費規程が整備されていれば、出張手当として支給した金額を経費に計上することができます。
また出張手当は所得に含まれないため、受け取る側の従業員にとっても節税メリットのある手法といえるでしょう。
別会社の設立
会社の経営が順調であれば、別会社(子会社・グループ会社)を設立して大きな節税を行う方法も1つです。
別会社を設立した場合、以下のような節税メリットが期待できます。
- 年間800万円までは軽減税率が適用される(資本金が1億円以下の場合)
- 新会社設立から2期間は名税事業者として消費税が免除される
- 年間売上が1,000万円未満の場合は3期目以降も消費税が免除される
- 親会社から子会社へ所属を移すことで退職金を計上できる
- 少額減価償却資産を年間最大300万円まで損金算入できる(損金算入の特例)
要注意!節税効果があまり期待できないNG対策とは
利益対策ばかりに意識が向いてしまい、不要な設備投資や過剰な福利厚生を実施してしまうと、結果として会社の損失になる可能性があるので注意しましょう。
例えば社用車として高級車を購入したり、社員旅行のグレードを大幅に上げたりといった経費の出し方です。
設備投資や福利厚生に資金を回す場合は、それが会社の成長につながるかどうかをしっかりと見極める必要があります。
またかつて法人向け節税対策として人気を集めていた「法人保険(生命保険)」も見直しが必要です。
2019年の税制改正以前は法人保険に支払った保険料の全額を損金算入することができましたが、行き過ぎた節税であるとして現在は規制が入っています。
法人保険では全く節税ができないというわけではないものの、効果としては大幅に薄れているので、他の節税策を検討した方が良いでしょう。
利益の繰り延べならオペレーティングリース投資もおすすめ
法人向けの利益対策として、オペレーティングリースを活用した投資商品もおすすめです。
最後に、オペレーティングリース投資による利益の繰り延べ策の仕組みや効果について詳しく見ていきましょう。
日本型オペレーティングリースの仕組み
そもそもオペレーティングリースとは、特定の物件を長期にわたって貸し出すことで、リース料などの利益を得る取引をいいます。
借手は自社で購入するよりも割安で物件を使用でき、また貸手はリース期間後の物件売却で売買差益(キャピタルゲイン)を得られるのがメリットです。
そして、このオペレーティングリースに使用するリース物件の購入に出資できるようにした仕組みを「日本型オペレーティングリース」といいます。
日本型オペレーティングリースの商品には航空機・船舶・コンテナの3種類があり、そのスキームは以下の通りです。(航空機リースの場合)
- リース会社が匿名組合を立ち上げ、法人投資家から航空機購入の資金を集める
- 法人投資家からの資金が不足している場合は金融機関から差額を借り入れる
- 出資金・借入金を使って航空機メーカーから航空機を購入する
- 購入した航空機で航空会社とリース契約を結び、リース会社がリース料を得る
- リース期間満了時に航空会社または市場が航空機を買い上げ、売却時の利益が法人投資家に分配される
オペレーティングリースによる節税効果
オペレーティングリースのポイントは、出資金を有価証券として扱うことで、匿名組合で計上された損益を法人投資家側でも認識できるという点です。
匿名組合では物件の全体価額に対して減価償却を行うため、出資金をはるかに上回る減価償却費が計上され、そこから出資額に応じた分配を受けることになります。
そのため、法人投資家側では出資初年度から多額の減価償却費を計上でき、大幅な利益の繰り延べが可能となるのです。
出資初年度に出資額の70~80%を減価償却できる商品もあり、突発的な利益対策として非常に有効といえるでしょう。
法人向けの税金対策まとめ
- 法人で大きな利益を出した場合には、決算賞与の支給や家賃の前払いなどで節税対策を行うのがおすすめ
- いつ利益が出ても困らないよう、あらかじめ役員報酬の見直しや旅費規定の整備を進めておくことが大切
- 多額の利益対策が必要な場合は、日本型オペレーティングリースへの投資も効果的
会社にとって大きな利益が出るのは喜ばしいことである一方、正しく節税を実施しないと法人税の増加につながるため注意も必要です。
無駄遣いによって経費を増やすのではなく、会社に必要な経費をしっかりと見極め、節税以外の恩恵も受けられる手法を選んでいくようにしましょう。