法人の節税対策
2020年度の税制改正で海外不動産投資はどうなる?節税への影響は?

税制改正によってこれまで節税に有効だった海外不動産投資への影響をご紹介

海外不動産投資は節税対策に効果があるとして人気の投資手法でしたが、2020年度の税制改正によって大きな規制がかかりました。

この記事では、海外不動産に関する税制改正の概要と、海外不動産に代わるおすすめの節税対策について解説

現在節税対策のために海外不動産を所有しているという方は、今後の対応を判断する際の参考にしてみてください。

ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員

この記事の監修担当者:伊藤理沙

日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。

個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。

2020年度(令和2年度)の税制改正で海外不動産の扱いはどう変わった?

減価償却費の計上によって大きな節税効果を得られることから、これまで多くの個人・法人が税金対策に利用してきた海外不動産投資。

しかし、海外不動産投資による節税は「税負担の公平性を欠いている」と以前から問題視されていた手法でもあり、今回の税制改正でついに規制が入ることとなりました。

まずは、海外不動産投資に関する税制改正の内容について詳しく見ていきましょう。

税制改正大綱の内容

国税庁が発表した2020年度の税制改正大綱には、海外不動産投資を使った節税に関して以下のように記されています。

国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例を次のとおり創設する。
個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。
引用元:

つまり2021年分の確定申告以降は、海外不動産投資による収支が赤字となった場合に、減価償却費の損失計上が認められなくなるということです。

その代わり、減価償却費そのものを生じなかったものとみなすことで、海外不動産を売却した際に発生する譲渡所得税を減額できる仕組みとなりました。

税制改正によって確定申告時の損益通算が認められなくなった

節税をするうえで、海外不動産投資の運用にともなう減価償却費が重要視されてきた理由は、減価償却費の計算方法にあります。

日本の税制において、木造建物の法定耐用年数は「22年」と定められています。

これは木造の新築物件を購入した場合に、22年間にわたって減価償却を行うということです。(=定額法)

一方、すでに耐用年数を超えている中古物件の場合は異なる計算方法(簡便法)が使われます。

簡便法の計算式は以下の通り。

法定耐用年数の一部を経過した場合 (法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
法定耐用年数の全部を経過した場合 法定耐用年数×20%

例えば築25年の建物を6,000万円で購入した場合、耐用年数は「22年×20%=4.4年」となります。

6,000万円を4年かけて減価償却することになるため、年間の減価償却費は1,500万円です。

仮に家賃収入が年間500万円とすると、差し引き1,000万円の赤字となり、これを給与所得などと損益通算して所得税を減額するというのがこれまでの仕組みでした。

ところが税制改正によって今後はこの損益通算が認められなくなるため、家賃収入である500万円と会社からの給与所得の全てに税金がかかることになります。

海外不動産への投資で節税を行ってきた投資家の方にとって、この税制改正は大きな痛手になると言えるでしょう。

税制改正後の海外不動産投資への影響とは

今回の税制改正によって、海外不動産投資を使った節税スキームを検討していた方は対策の方向転換が必要となりました。

また今後は節税目的で海外不動産投資を行うのではなく、家賃収入の安定化と売却時の利益獲得を狙った動きにシフトしていくことが予想されます。

国内・海外問わず、今まで以上に物件の立地条件やその他の付加価値に対する知識を付け、じっくりと比較・検討することが重要なポイントになっていくでしょう。

これまで節税対策として海外不動産が人気を集めていた理由

今回の税制改正で海外不動産投資を使った節税スキームに規制がかかりましたが、そもそもなぜ国内ではなく海外不動産の投資が利用されていたのでしょうか。

続いて、海外不動産投資の方が高い節税効果を得られる理由について解説していきます。

アメリカでは土地よりも建物に価値がある

日本と海外(アメリカ)では、不動産に対する価値の持たせ方に大きな違いがあります。

日本では土地よりも建物の方が価値が低く、不動産全体の内、建物の価値が占める割合は20%程度です。

一方アメリカの場合は建物の方が高い価値を持っており、不動産全体の80%程度が建物に対する価格と言われます。

ここで重要となるのが、確定申告の際に減価償却を行えるのは建物の部分だけであるということ。

つまり、例えば1億円の不動産を購入した場合、日本の物件では2,000万円しか減価償却できないのに対し、海外の物件なら8,000万円を減価償却できるのです。

この減価償却費の差が、海外不動産投資が人気を集めていた大きな理由の1つです。

中古物件でも高値で売却できる

もう1点、海外不動産投資が人気を集めていた理由として、日本とアメリカの中古物件に対する価値観の違いが挙げられます。

日本の場合は築浅物件が好まれるため、耐用年数を超えた建物の価値は一気に低下してしまいます。

一方アメリカでは築古物件でも資産価値が保たれやすく、中にはヴィンテージ物件として逆に価値が上昇するケースもあるのです。

そのため築22年を経過した中古物件を購入しても、ほとんど変わらないような金額で売却できる可能性が高く、売却益を活用した出口戦略も立てやすいのがメリットでした。

税制改正後の対応策とは

税制改正で海外不動産投資による節税スキームが封じられた今、不動産を所有している投資家の方は新たな節税策を考えなければなりません。

最後に、税制改正後の対策として検討したい3つの手法についてご紹介していきます。

海外不動産の売却による控除

今回の税制改正大綱では、減価償却費の損益通算ができなかった不動産について、売却時の譲渡益から減価償却費相当額を控除できるというルールが設けられました。

減価償却費ほどの節税メリットはないものの、譲渡益を減額することでも税負担が軽くなるため、出口戦略の1つとして活用してみても良いでしょう。

法人は今後も海外不動産を使った節税が可能

今回の税制改正で影響を受けるのは個人の投資家のみです。

法人では引き続き海外不動産投資による節税スキームを利用できるため、一定以上の所得がある場合は法人成りするのも手段の1つです。

ただし、今後の税制改正で規制の範囲が法人まで広がる可能性もゼロではないため、海外不動産投資を継続する場合は慎重な判断が必要となります。

【法人向け】オペレーティングリースを活用した節税への切り替え

海外不動産投資に関する税制改正が法人まで及んだ場合に備えて、早めに別の節税スキームへの切り替えを検討しておくのも良いかもしれません。

法人税の節税効果が期待できる話題のスキームとして、「日本型オペレーティングリース」があります。

日本型オペレーティングリースとは、航空機や船舶といったリース資産の購入に出資することで、リースで得た賃料や売却益の分配を受けられる仕組みのことです。

こちらも不動産と同様、航空機や船舶にかかる減価償却費を会社の損益と通算できるため、大きな節税メリットを得られます。

また日本型オペレーティングリースの場合、減価償却が「定率法」で行われるため、不動産と比較して早期に減価償却を行えるというメリットがあります。

中には出資初年度に出資額の70~80%を償却できる商品もあり、突発的な利益が出た年の繰り延べ策として非常に有効です。

更に事業承継と組み合わせることで、贈与税・相続税の対策や売却益と退職金との相殺など様々なポイントで節税が可能に。

不動産と違い定期的なメンテナンスや修繕なども必要ないため、日本型オペレーティングリースは海外不動産に代わる新たな節税スキームとしておすすめです。

まとめ

  • アメリカでは日本と比べて中古物件に対する価値が高いことから、節税目的の投資として広く活用されていた
  • 2020年度の税制改正でこの節税スキームが封じられ、今後は節税メリットを享受できなくなる
  • 今後の税制改正で規制が法人まで広がる可能性もあるため、早期に別の対応策を考えておくことが大切

海外不動産投資による節税は高い人気を集めていましたが、税制改正以降はこれまでのようなメリットを得ることが難しくなっていきます。

すでに規制が入った個人投資家の方はもちろん、今後規制が入る可能性がある法人投資家の方も、早い段階から対策を進めることが求められるでしょう。

日本型オペレーティングリースは利益対策・事業承継対策にも有効な人気の節税スキームです。

海外不動産投資に代わる節税手法として日本型オペレーティングリースをお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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