法人の節税対策
全損保険の解約返戻金を使った節税策にメス!今後の対応は?

全損保険の仕組みと税制改正による節税への影響を解説

全損保険の解約返戻金を使った節税策にメス!今後の対応は?

保険料として支払った金額を全額損金にできることから、節税対策として広く活用されてきた「全損保険」。

しかし、2019年に通達された税制改正により、これまでのような節税効果が期待できなくなってしまいました。

この記事では、全損保険の仕組みと税制改正の概要、そして全損保険に代わるおすすめの節税対策を紹介していきます。

ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員

この記事の監修担当者:伊藤理沙

日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。

個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。

法人向け全損保険の概要と節税の仕組み

法人向けの保険商品には様々な種類がありますが、中でも節税対策として活用されていたのが「全損保険」です。

まずは、従来の全損保険の仕組み・会計処理と、全損保険から得られる節税効果について詳しく見ていきましょう。

全損保険・半損保険の概要

全損保険とは、支払った保険料の全額を損金として経費計上できる法人向けの保険商品です。

定期保険(生命保険)や第三分野保険(がん保険・医療保険)の商品の1つとして取り扱われることが多く、主に法人企業の節税対策に活用されていました。

全損保険の他、法人向けの節税用保険商品には1/2損金(半損)・1/3損金・1/4損金などがあります。

全損保険の加入による節税効果とは

全損保険を使った節税対策の仕組みは以下の通りです。

  1. 全損保険に加入し、保険料を支払う
  2. 支払った保険料の全額を経費計上
  3. 解約返戻率がピークとなるタイミングで保険を解約
  4. 解約返戻金を収入として計上

解約返戻率とは、生命保険を解約したときに保険会社から払い戻される金額の割合のことです。

契約後から少しずつ返礼率が上昇し、ピーク以降は少しずつ減少していくのが一般的。

そのため、生命保険に加入して保険料を支払い、解約返戻率がピークのところで解約・返戻金の受け取りを行うことで、実質的な利益の繰り延べが可能となるのです。

また解約返戻金として戻ってきたお金は役員退職金や設備投資・修繕費などに活用できるので、上手くタイミングを合わせることで出口対策も可能となります。

このように、利益の繰り延べや出口対策を行いやすい法人向け生命保険は節税対策として注目され、中でも保険料を全額損金にできる全損保険は多くの企業が導入していました。

これまでの会計処理・仕訳方法

ここでは、定期の生命保険(全損)に加入した場合を例にして、実際の仕訳処理を解説します。

なお定期の生命保険とは、一定の契約期間中に被保険者が死亡した場合に保険金の支給を受けられる保険商品のことです。

全損保険に加入し、保険料を支払った場合の経理処理は以下の通りとなります。

貸方 借方
支払保険料:1,000,000 普通預金:1,000,000

また解約返戻金を受け取った場合の経理処理は以下の通りです。

貸方 借方
普通預金:10,000,000 雑収入:10,000,000

加入した生命保険が全損ではなく半損だった場合は、損金となる部分が「支払保険料」、資産となる部分は「前払保険料」などの勘定科目で処理を行います。

税制改正で全損保険にメス!今後の対応は

保険料の経費計上と解約返戻金の受け取りによって利益の繰り延べを可能としていた全損保険ですが、2019年度の税制改正でこのやり方に規制がかかりました。

続いて、税制改正による全損保険への影響と、国税庁が大幅な税制改正に踏み切った背景について詳しく見ていきましょう。

税制改正によって変更となった全損保険のルール

従来の税制では、保険の契約期間に対して損金計上の計算が行われていましたが、今後はピーク時の解約返戻率によって損金割合が判定される仕組みとなりました。

ピーク時の解約返戻率ごとの損金計上割合は以下の通り。

ピーク時の返礼率 資産計上期間 資産計上割合 資産取崩期間
50%超70%以下 保険期間の開始日から、当該保険期間の40%相当を経過する日まで 当期分支払保険料×40% 保険期間の75%相当が経過した日から保険期間の終了日まで
70%超85%以下 同上 当期分支払保険料×60% 同上
85%超 ①保険期間の開始日から、解約返戻率のピーク期間の終了日まで 10年目まで:当期分支払保険料×90%/11年目から:当期分支払保険料×70% 解約返戻率のピーク期間が経過した日から保険期間の終了日まで
②上記(①)期間経過後において、年換算保険料に対する解約返戻金の割合が70%を超える期間がある場合、保険期間の開始日からその期間の終了日まで 同上 同上
③上記(①・②)の資産計上期間が5年未満の場合は、保険期間の開始日から5年を経過する日まで(保険期間が10年未満の場合は、当該保険期間の50%相当を経過する日まで) 同上 同上

例えば、ピーク時の解約返戻率が90%の生命保険に加入した場合、契約後10年間は支払った保険料の19%(100%-100%×90%×90%)の損金算入しか認められないということです。

従来は最大で100%の損金算入が可能であったことを考えると、節税効果が大幅に薄れたのは明らかです。

なお、ピーク時の解約返戻率が50%以下の保険商品については、これまで通り全額を損金計上することができます。

また保険期間が3年未満のものや、最高解約返戻率が70%以下かつ年換算保険料相当額が30万円以下の保険商品なども全損での処理が可能です。

税制改正が行われた背景

本来、保険商品は支払った保険料に対する保障を受けるためのものですが、法人は保険料による所得の控除に上限がないことから、いつしか節税目的としての利用が拡大。

また保険会社側も、解約返戻率の過度な引き上げや平準化・逓増(ていぞう)保険の新設などを行い、節税に向けた売り出し方が過熱していったのです。

これは行き過ぎた節税であるとして、国税庁では過去にも個別通達による見直しが実施されてきました。

しかし、その都度ルールの穴をつくような商品が登場し、実際はイタチごっこの状態でした。

そこで、2019年度の税制改正でより根本的な仕組みの改正が行われ、節税目的の保険商品を販売する動きを完全に封じる流れとなったのです。

この通達がなされたのは2019年2月14日のことで、当時は「バレンタインショック」という通称で大きな話題を集めました。

今後は保障を意識した生命保険の活用を

節税効果の大きく薄れた法人向け生命保険ですが、加入するメリットがなくなったというわけではありません。

生命保険は保障を受けるために加入するものですから、保障内容を意識した商品選びを行うという本来の姿に戻っただけです。

また損金計上できる割合は減るものの、保険料を支払うことにより、解約返戻金や満期保険金といった形で簿外に資産を残せるのも生命保険のメリットです。

将来のための積み立てを行いつつ、一部を損金計上することで多少の節税ができるという点で、生命保険はまだまだ利用価値のある商品と言えるでしょう。

保険商品に代わるおすすめの法人向け節税策「日本型オペレーティングリース」

これまで全損保険を使った節税対策を実施していた企業は、これに代わる新たな節税対策の導入が必要です。

全損保険と同様、利益の繰り延べによって法人税の節税を行えるスキームとして、「日本型オペレーティングリース(JOL)」があります。

日本型オペレーティングリースとは、オペレーティングリースの仕組みに匿名組合の契約形態を組み合わせ、法人からの出資を可能とした投資商品のことです。

法人はオペレーティングリースで使用するリース資産の購入に出資ができ、出資額に応じた損益の分配を受けることで節税を行うという仕組みです。

主な投資商品は航空機・船舶・コンテナの3種類で、1,000万円~3,000万円以上の金額を一括で出資します。

これらの商品は匿名組合側で定率法による減価償却が行われ、そこから出資額に応じた減価償却費の分配を受けられます。

この仕組みにより、初年度から多額の減価償却費を計上でき、利益の繰り延べが可能となるのです。

全損保険などの保険商品の場合、加入後は毎月または毎年といった間隔で保険料の支払いが発生します。

一方日本型オペレーティングリースは1回だけの出資で完了するため、翌年度以降の支払いを気にしなくて良い点がメリット。

また出資額によっては数千万円~数億円単位の損金算入も可能となっており、突発的な利益対策として有効な策と言えるでしょう。

まとめ

  • 全損保険とは、支払った保険料の全額を損金として経費計上できる法人向けの節税商品のこと
  • 2019年度の税制改正で大幅なルールの見直しが行われ、全損保険・半損保険による節税が利用不可に
  • 全損保険に代わる節税対策として、大きな利益の繰り延べができる日本型オペレーティングリースが注目されている

全損保険や半損保険といった節税商品は使えなくなりましたが、生命保険自体は引き続き保障面などでメリットのある商品です。

生命保険は将来に向けた積み立てや保障を目的とした利用に切り替え、新たな節税対策として日本型オペレーティングリースなどの導入を検討してみてください。

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