法人税の節税対策として広く活用されてきた法人向け生命保険ですが、2019年の税制改正で、その取り扱いルールに大きな変更がありました。
この記事では、法人向け生命保険に関する税制改正の概要と、今後の生命保険の活用方法・注意点を解説。
法人向け生命保険に変わるおすすめの節税対策も紹介しているので、会社の節税方法でお悩みの方はぜひ参考にしてみてくださいね。
AFP(日本FP協会認定) / MDRT成績資格会員(COT)
この記事の監修担当者:渋谷幸司
新卒で大手鉄鋼商社に入社。5年半、日本を支える鉄鋼企業と世界の橋渡しに尽力した後、2015年外資系大手生命保険会社に転職。転職後も前職のお客様を金融業の側面から支えたいという想いで奮闘した。
日々取り組んでいく中で、世界情勢の変化や、日本社会の制度改定、お客様の思考変化を察知し、自身の事業変革を決断。
2018年大手上場金融代理店に入社し、生命保険業においてはMDRT、COT成績資格会員と実績を伸ばしつつ、所属会社で扱っていないDC(確定拠出年金)などを自ら会社の枠を超えて代理店契約するなど勢力的に活動。現在は保険営業マン向けのセミナー講師を務め、「先生」として同業者から熱い信頼を受けている。
個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。
法人向け生命保険の特徴と節税の仕組み
法人向け生命保険とは、経営者・役員・従業員を対象に法人として加入する生命保険商品のことです。
積立型の定期保険・終身保険や掛け捨て型の定期保険などがあり、中でも積立型の定期保険は「節税保険」と呼ばれ、法人税の節税に広く活用されてきました。
しかし、2019年の税制改正で法人向け生命保険に関するルール変更があり、保険を使った節税対策の効果が大きく薄れてしまったのです。
まずは法人向け生命保険のこれまでの取り扱いと、税制改正によって取り扱いがどのように変わったのかを解説していきます。
法人向け生命保険の税務上の取り扱い
法人の場合、福利厚生費や減価償却費、旅費交通費などと同じように、保険料の経費計上が認められています。
個人と違い、法人には控除額の上限がないため、例えば「全損保険」であれば、支払った保険料の全額を損金算入することが可能でした。
また、節税目的の生命保険は解約返戻率が高いという点も特徴です。
解約返戻率とは、生命保険の解約時に保険会社から払い戻される金額の割合のことで、契約後から少しずつ上昇し、ピーク以降は減少していくのが一般的。
そのため、解約返戻率がピークとなるタイミングで生命保険を解約し、返戻金を受け取って退職金などにあてるという方法が活用されてきました。
税制改正で損金算入のルールはどう変わった?
2019年の税制改正で、ピーク時の解約返戻率によって損金計上できる割合を決定する方法が導入されました。
これにより、従来の全損保険や1/2損金(半損)保険を使った損金算入が不可能となり、節税効果が大きく削られることになったのです。
ピーク時の解約返戻率による損金算入のルールは以下の通り。
ピーク時の返礼率 | 資産計上期間 | 資産計上割合 | 資産取崩期間 |
---|---|---|---|
50%超70%以下 | 保険期間の開始日から、当該保険期間の40%相当を経過する日まで | 当期分支払保険料×40% | 保険期間の75%相当が経過した日から保険期間の終了日まで |
70%超85%以下 | 同上 | 当期分支払保険料×60% | 同上 |
85%超 | ①保険期間の開始日から、解約返戻率のピーク期間の終了日まで | 10年目まで:当期分支払保険料×90%/11年目から:当期分支払保険料×70% | 解約返戻率のピーク期間が経過した日から保険期間の終了日まで |
②上記(①)期間経過後において、年換算保険料に対する解約返戻金の割合が70%を超える期間がある場合、保険期間の開始日からその期間の終了日まで | 同上 | 同上 | |
③上記(①・②)の資産計上期間が5年未満の場合は、保険期間の開始日から5年を経過する日まで(保険期間が10年未満の場合は、当該保険期間の50%相当を経過する日まで) | 同上 | 同上 |
例えば、ピーク時の解約返戻率が90%の生命保険の場合、契約後10年間は支払った保険料の19%(100%-100%×90%×90%)しか損金算入できないということです。
これまでは最大で100%を損金算入できたわけですから、割合が大幅に下がったことが分かります。
なお、ピーク時の返礼率が50%以下の生命保険については、これまで通り全額を損金計上することができます。
また保険期間が3年未満のものや、ピーク時の解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額が30万円以下となる生命保険についても全損処理が可能です。
生命保険の見直しが行われた理由とは
国税庁から生命保険に関する税制改正が通達されたのは2019年2月14日のことで、当時は「バレンタインショック」という通称で大きな話題を集めました。
生命保険会社では、税制改正の影響を受ける全損保険などの販売停止・自粛に追われ、2019年6月の税制改正実施以降は新ルールに沿った商品に切り替わっています。
この税制改正の実施には、本来保障を受けるための商品である生命保険が節税目的で利用されるようになり、行き過ぎた節税になっていたという背景があります。
生命保険会社側も、過度な解約返戻率の引き上げや平準化・逓増(ていぞう)保険の新設など、節税商品としての売り出し方が中心になっていました。
これまでは個別通達によって見直しを図っていた国税庁ですが、その都度ルールの穴をつくような商品が登場し、現実はイタチごっこの状態でした。
そこで、2019年の税制改正で根本的な仕組みの見直しが実施され、節税目的の生命保険の販売自体が封じられることとなったのです。
今後は生命保険の利用目的を明確に!契約のメリット・デメリット
税制改正によって節税効果が大きく削られた法人向け生命保険ですが、だからといって加入するメリットが全くないというわけではありません。
続いて、これからの生命保険の活用方法と、加入する際の注意点について詳しく見ていきましょう。
これからの生命保険の活用方法
新たに法人向けの生命保険を契約する場合は、以下のような活用方法を前提として商品を選ぶのがおすすめです。
- 万が一の際に保障を受けるための準備
- 退職後の資金準備
- 従業員の福利厚生
- 後継者の経済的負担を抑える
今後は節税目的の商品としてではなく、生命保険が持つ本来の機能である保障面で保険商品を比較・検討することが大切になるでしょう。
また養老保険や医療保険に加入し、従業員の福利厚生を整えるという活用方法もあります。
生命保険の大きなメリットは、保険料を支払うことで、解約返戻金または満期保険金の形で簿外に資産を残すことができるという点。
ある程度の保険料を損金算入しつつ、将来のための積み立てができるため、節税効果が薄れたとしても利用価値は十分にあると言えるでしょう。
生命保険を契約する際の注意点
法人向けの生命保険に加入する際は、以下の点に注意が必要です。
- 保険解約のタイミングによっては損失が出る
- 会社の資金繰りが悪化するリスク
何らかの理由で解約返戻率が低いタイミングでの解約が必要となった場合、受け取る返戻金が支払保険料を下回り、大きな損失となる可能性があります。
早期解約の場合は返戻率が40%以下になることも珍しくないため、返戻率の低いところで解約することにならないよう、契約時期は慎重に判断しましょう。
また法人向け生命保険に加入すると、毎月あるいは毎年の保険料支払いが発生します。
保険料を支払うタイミングで大きなキャッシュアウトが起こるため、資金繰りが安定していない状態で保険に加入するのはリスクが大きいと言えます。
ある程度収入の基盤が安定したところで、法人向け生命保険の加入を検討してみると良いでしょう。
法人の節税対策におすすめのスキーム
ここからは、法人向け生命保険に変わるおすすめの節税スキームをご紹介。
引き続き生命保険を活用しつつ、その他の節税策も取り入れたいとお考えの方はぜひチェックしてみてください。
海外不動産投資
海外不動産投資による節税も、法人の間で広く活用されているスキームです。
海外不動産投資は事業の1つとして扱われるため、投資にともなって発生する税金・保険料・修繕費といった費用の損益通算が認められています。
これにより、不動産投資で発生した損失をその他の所得と相殺し、節税効果を得ることができるのです。
また海外不動産の場合、日本の不動産と比較して建物に対する価値が高く、より大きな金額を減価償却できるという点もメリットの1つ。
例えば、同じ1億円の物件を購入した場合、日本の物件は2,000万円しか減価償却できないのに対し、アメリカの物件は7,000万円~8,000万円を減価償却できます。
実際は家賃収入などがあるため減価償却費の全額分を控除できるわけではありませんが、節税効果としては十分と言えるでしょう。
なお、2020年の税制改正で個人投資家に対する損益通算の規制がかかりましたが、現状法人では引き続きこの方法で節税を行うことが可能となっています。
オペレーティングリース投資
同じく減価償却費の計上によって節税ができるスキームとして、オペレーティングリース投資があります。
オペレーティングリースとは、リース資産を貸し出し、期間中の賃料や最終的な売却益などを得るリース取引のことです。
このリース資産の購入に出資することで、減価償却費や益金の分配を受けられるようにした商品を「日本型オペレーティングリース(JOL)」といいます。
日本型オペレーティングリースの商品は航空機・船舶・コンテナの3種類で、最低1,000万円からの出資が可能。
これらの商品は定率法によって減価償却されるため、出資初年度に出資額の70%~80%を損金算入できる点が特徴です。
数千万円や数億円単位の損金算入もでき、突発的な利益が出た年の繰り延べ策として広く活用されています。
また日本型オペレーティングリースは損金算入できる金額が大きいことから、事業承継との相性も良いです。
多額の損金算入によって会社の評価(株価)が下がったところで株式移転をすれば、贈与税・相続税の節税ができます。
更に売却益が入るタイミングを現社長の退職に合わせることで、益金と退職費用の相殺による出口戦略も可能です。
まとめ
- 2019年の税制改正で、全損保険や1/2損金(半損)保険を使った節税対策が封じられた
- 今後は節税目的ではなく、保障や福利厚生を意識した生命保険選びが重要となる
- 生命保険に代わる法人税の節税スキームとして、海外不動産投資やオペレーティングリース投資がある
法人向け生命保険による節税効果はほとんどないものとなりましたが、将来のための貯蓄や保障面では引き続きメリットのある商品です。
生命保険は本来の目的で加入しつつ、節税対策として海外不動産投資やオペレーティングリース投資の活用を検討してみてください。