法人の節税対策
医療法人化で賢く節税!開業医向けの税金対策まとめ

医療法人が行う効果的な節税対策をご紹介

病院やクリニックの経営が順調な場合は、医療法人化することで大きな節税効果を期待できます。

この記事では、医療法人が利用できる節税手法と、医療法人化によるメリット・デメリットを解説。

法人向けの一般的な節税手法も紹介しているので、法人成りを検討している開業医・個人事業主の方はぜひ参考にしてみてくださいね。

ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員

この記事の監修担当者:伊藤理沙

日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。

個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。

医療法人設立で利用できる節税対策

現在個人事業主として病院やクリニックを経営している方の中には、将来的に医療法人化を行いたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。

事業所得が1,800万円を超えている、また社会保険診療報酬が5,000万円を超えているといったケースでは、医療法人化によって大きな節税効果が見込めます。

まずは、医療法人化することで利用できる主な節税手法について詳しく見ていきましょう。

所得税と法人税の税率差

個人にかかる所得税と法人にかかる法人税は、それぞれ以下のように税率が設定されています。

<所得税>

課税所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

<法人税>

事業年度開始時期 800万円以下の部分 800万円超の部分
平成30年3月31日まで 15% 23.4%
平成30年4月1日から平成31年3月31日まで 15% 23.2%
平成31年4月1日以降 19% 23.2%

個人の場合は最高で45%もの税率がかかりますが、医療法人になれば23%程度(800万超の場合)に抑えられます。

この税率の差によって節税効果を得られる点が医療法人化の大きなメリットの1つです。

親族に対して役員報酬を支払う

医療法人を設立する場合は、理事長1人と理事2人の合計3人を立てる必要があります。

理事長には自身が就任し、他の理事として親・配偶者・子どもなどの親族を配置することで、役員報酬を支給するという形での所得分散が可能となります

個人でも親族に専従者給与を支給して節税することが可能ですが、理事報酬の方がより大きな金額を支給できるため、節税効果が高いです。

また退職金を支給できたり、法人の資産とすることで事業承継がしやすくなったりといった相続面でのメリットもあります。

生命保険の活用

個人事業の場合、生命保険料などの控除額は年間12万円までとなりますが、医療法人の場合にはこの上限がありません。

生命保険料として支払った金額を経費に計上しつつ、退職金を積み立てて将来に備えるという使い方が可能です。

ただし生命保険料の損金算入については2019年の税制改正で大きな規制がかかったため、経費化できる割合などを確認しながら契約する必要があるでしょう。

医療法人は相続税・贈与税がかからない

かつては出資持分ありの医療法人(社団医療法人)が設立できましたが、2007年の医療法改正以降は出資持分なしの医療法人しか認められなくなっています。

出資持分のない医療法人は相続の対象から外れるため、内部留保に対する相続税がかからず、大きな節税効果が見込めます。

また贈与税もかからないため、事業承継の際は理事長を変更するだけで済むという点もメリットです。

医療法人化によるその他のメリット・デメリット

開業医を医療法人化させることで、節税面以外にもいくつかのメリットを得られます。

一方で手続き面でもデメリットなどもあるため、合わせて確認していきましょう。

個人では認められない多角経営が可能

医療法人の場合、分院や介護事業など個人では認められない複数事業の経営が可能となります。

経営の多角化や更なる収益拡大を目指す場合に有効な策と言えるでしょう。

繰越欠損金の繰越期間が延長

個人の場合は繰越欠損金の繰越期間が3年間しかありませんが、医療法人なら10年間繰り越すことができます。

赤字が出た場合は以降10年間の黒字と相殺できるため、法人税の節税にも効果的です。

事務手続きが増える

医療法人に限らず、法人を設立する場合は資産登記や事業報告書の提出といった様々な事務手続きが発生するため、書類作成などの負担が大きくなります。

社会保険への強制加入

法人は従業員の人数にかかわらず社会保険への加入が必須であるため、法人および従業員に対する保険料の負担が増加する点に注意が必要です。

法人が利用できる節税対策はこの他にも!

ここまで、開業医を医療法人化させることで得られる節税メリットをご紹介してきました。

法人の場合は税制や投資を活用することによって、更なる節税対策も可能です。

最後に、医療法人にかかわらず、全ての法人で覚えておきたい効果的な節税対策について詳しく見ていきましょう。

出張旅費規程の作成

遠方への出張が度々ある場合は、出張旅費規程を活用した節税がおすすめです。

出張旅費規程で定めた出張費の支給額は経費として認められており、その全額を損金にすることができます。

この制度は医療法人の役員に対しても適用できます。

出張旅費規程には以下のような項目の記載が必要です。

  • 出張旅費規程の目的
  • 適用範囲
  • 出張の定義
  • 費用の種類と支給額
  • 申請や清算などの手続き方法

更に出張手当は事業活動にかかる費用であるため、消費税の仕入税額控除が適用可能。(出張先が国内の場合)

永続的に利用できる節税手法としておすすめです。

中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、中小事業者の設備投資による生産性向上を後押しする制度のことです。

一定の要件を満たすことで、資産の即時償却または10%の税額控除を受けることができます。

対象となる設備は以下の通り。

機械装置 160万円以上
測定工具および検査工具 30万円以上
器具備品 30万円以上
建物付属設備(医療法人は適用不可) 60万円以上
ソフトウェア 70万円以上

上記の内、以下の2つの要件を満たす場合に中小企業経営強化税制を適用できます。

  • 一定期間内に販売されたモデル(中古資産を除く)
  • 経営力の向上に資するものの指標(生産効率・制度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備

医療保険業については一部適用外となるものもありますが、節税メリットの大きい手法となるので覚えておくと良いでしょう。

なお中小企業経営強化税制を申請する場合は、設備のメーカーに証明書の発行を依頼する必要があります。

家賃や備品購入費用の前払い

家賃や保険料などの継続的な費用については、翌年分を当期の決算から損金算入することで節税につながります。

通常、前払い費用はサービスの提供を受けたときに損金算入を行いますが、支払いから1年以内にサービス提供を受けるものは「短期前払費用」として損金算入が可能です。

ただし不自然に高額な契約である場合や、金額が変動的なものである場合は否認されるケースもあるため注意しましょう。

オペレーティングリース投資

オペレーティングリースとは、リース資産を貸し出すことで、賃料や売却益を得るリース取引の1つです。

このリース資産を購入する際に、法人投資家からの出資を受けられるようにしたものを「日本型オペレーティングリース(JOL)」といいます。

JOLでは航空機や船舶といった高額な物件を取り扱っており、一度に数千万円から数億円単位の損金算入が可能。

また定率法で減価償却を行うため出資初年度の損金算入額が大きいのも特徴です。

永続的な節税というよりは、突発的な利益が出た年の繰り延べ策として広く利用されている節税スキームです。

まとめ

  • 医療法人化することで、親族への役員報酬支給や事業承継にともなう贈与税・相続税の非課税といった節税メリットを受けられる
  • 中小企業経営強化税制やオペレーティングリース投資など、法人ならではの節税スキームも利用可能
  • 事務手続きや社会保険料の負担が増えるというデメリットもあるため、医療法人化を行う際は税理士などへ相談して慎重に判断することが大切

病院・クリニックの収益力や後継者の有無などによって、医療法人化による節税メリットは異なります。

将来的な目標などを踏まえたうえで、しっかりとシミュレーションをしながら医療法人化を検討してみてください。

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