法人として事業を行うのであれば、法人の経営者自身が税金の仕組みや節税対策を理解しておく必要があります。
この記事では、法人税を正しく節税するために知っておきたいポイントと、中小企業向けのおすすめ節税対策を紹介していきます。
決算直前になって慌てることのないよう、前もって法人税の節税対策を取り入れていきましょう。
証券外務員 / ファミリービジネスアドバイザー
この記事の監修担当者:櫻井浩介
日系大手証券会社を経て、顧客第一主義を極めるために2018年に独立。高所得法人やそのオーナー一族をクライアントに持つ。
主な業務は、資産管理。また、弁護士、税理士、会計士などのプロフェッショナルと協働して、様々な事業承継案件や事業再生案件等、クライアントの持続的発展のためのサポートを多岐に渡っておこなっている。
証券会社時代の経験に基づく資産運用、節税対策などの幅広い経験と知識に裏付けられた誠実なアドバイスは、資金面に悩む顧客から絶大な信頼を得ている。
個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。
中小企業が法人税を節税するうえで知っておきたいポイント
節税とは、中小企業などの法人が事業を通して得た所得や、各個人の所得に対して課せられる税金をなるべく安く抑えようとする考え方のことです。
まずは、法人税の節税に関する基本的な知識と、効果的に法人税を節税するためのポイントを詳しく見ていきましょう。
節税と脱税・租税回避の違い
法人税の節税対策を取り入れる際は、その手法が「脱税」や「租税回避」といった行為にあたらないか確認しましょう。
脱税とは、法律に違反する手法を用いて税金の支払いを免れようとする行為のことです。
意図的な申告漏れや、虚偽の会計報告によって売り上げを減らしたり、経費を上乗せしたりするケースが該当します。
脱税が発覚した場合は、「5年以下の懲役」または「500万円以下の罰金」が課せられます。
また租税回避とは、法律の抜け穴を利用して税金の支払いを免れようとする行為のことです。
グレーゾーンの手法となるため、発覚しても刑罰を受けることはありませんが、申告自体が否認されて課税されるリスクが高いやり方になります。
脱税や租税回避にあたる手法を利用すると、最終的には追加の税金を支払う羽目になり、会社の経営を圧迫することにつながります。
法人税を抑えられるからといってむやみやたらに取り入れるのではなく、その手法が正当な節税対策であるかどうかを見極めることが大切です。
節税面以外のメリットもしっかり比較
法人税の節税対策として紹介される手法の中には、キャッシュアウトの発生するもの・しないものの大きく2種類があります。
減価償却資産の購入や保険への加入、投資といった手法はキャッシュアウトが発生するため、事業資金が潤沢な中小企業で活用したい節税対策です。
一方、未払費用の計上や旅費規程の作成といったキャッシュアウトを伴わない手法は、事業の資金が十分でないときや、起業間もない中小企業でも導入しやすい節税対策といえます。
本来必要な事業資金を無理に節税へ回そうとすると、後々経営が苦しくなってしまう可能性が高いため、経営状況に合わせた節税手法を選ぶことが重要です。
年間の節税計画を立てておく
効果的に節税を取り入れていきたいのであれば、月々の収支や利益の状況を把握しつつ、前もって計画を立てておく必要があります。
年度初めに計画が立てられていない場合は、遅くとも決算3ヶ月前までに残り期間のシミュレーションを行うようにしましょう。
既に結果の出ている9ヶ月分のデータをもとにして当期の純利益を予測し、そこから必要な節税対策を検討するという方法です。
またこちらは3ヶ月前だけでなく、2ヶ月前・1ヶ月前にも同様のシミュレーションを行うことで、適切な節税対策の選択や支払う税金の予測が行いやすくなるでしょう。
法人(中小企業)向けのおすすめ節税対策
ここからは、中小企業で利用できる具体的な法人税の節税手法を紹介していきます。
また中小企業に対して設定されている税制上の優遇措置についても触れているので、合わせて参考にしてみてください。
役員報酬の見直し
会社の役員に対して支給される報酬(=役員報酬)については、「定期同額給与」または「事前確定届出給与」の基準を満たすことで経費計上が可能です。
定期同額給与
定期同額給与とは、毎月一定額の役員報酬を支払う仕組みのことです。
事業年度開始の属する会計期間開始日から3カ月以内に給与改定を実施する必要がありますが、永続的に節税効果を得られる人気の手法となります。
ただし、利益が出た月だけ追加の報酬を支払うといった場合は経費計上が認められなくなるので注意しましょう。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員に対して所定のタイミングで所定の報酬を支払うことを取り決め、事前に税務署へ届け出る制度をいいます。
定期的な支給ではなくとも、事前に申告されている報酬であれば経費として計上できるというものです。
事業年度ごとに税務署へ届け出が必要となりますが、非常勤の役員がいる法人などにおすすめの節税対策です。
固定資産の売却・除却
不要となった固定資産を売却または除却(廃棄)することで、売却損・除却損を経費計上することができます。
また、すぐには固定資産の除却を行わず、会計上でのみ除却処理を行う「有姿除却」という方法もおすすめ。
税務調査の際に不使用であることを証明する資料が必要となりますが、固定資産の処分にかかる費用の調達が難しい場合はこちらを利用してみると良いでしょう。
出張旅費規程を作成し出張旅費を経費化
出張旅費規程とは、出張の際に必要となる費用の取り扱いや支給額、申請方法などをまとめた規程のことです。
こちらを作成しておけば、出張手当として支給した費用を経費計上することが認められます。
なお出張旅費規程は会社の全社員に対して適用されるものとなるため、役職によって支給額を変更することは可能ですが、一部の役員にだけ支給することはできません。
未払費用の計上
未払費用とは、「今期の費用として発生したものの、支払いが翌期になる費用」のことをいいます。
締め日以降に発生した通勤手当や法人側で負担する社会保険料、法人カードで精算した経費などが挙げられます。
この未払費用を今期分の経費として計上することで、課税所得を抑えて法人税の節税効果を得ることが可能です。
不良債権の計上
売掛金や貸付金のうち、回収が不能となったもの(=不良債権)を整理することで法人税を節税できるケースもあります。
不良債権の相手先に「債権放棄通知書」を発行し、これが税務上認められた場合は、金額の一部または全部を「貸倒損失」として経費計上できるようになります。
貸倒損失が認められるケースについては、こちら(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5320.htm)をご参照ください。
中小企業向け共済への加入
中小企業の場合は、中小企業向けの共済制度に加入して掛け金を経費にするという方法も利用可能です。
中小企業向けの共済制度には以下のようなものがあります。
小規模企業共済 | 社長自身の退職に備えて、社外に退職金を積み立てておくための制度 |
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中小企業退職金共済 | 従業員の退職に備えて、社外に退職金を積み立てておくための制度 |
中小企業倒産防止共済 | 取引先が倒産した場合などに、掛け金の最大10倍の融資を無担保・無保証・無利子で受けられる制度 |
中でも「中小企業倒産防止共済」は、掛け金を全額経費計上できるだけでなく、40ヶ月以上支払いを継続したあとに解約することで、掛け金の100%が返還される仕組みです。
社外への資金積み立てと合わせて節税効果を得られ、更に万が一の保障も受けられるということで、中小企業で広く活用されている制度となります。
日本型オペレーティングリース
日本型オペレーティングリースとは、オペレーティングリース取引で使用する資産の購入に出資することで、出資額に応じた損益の分配を受けられる投資商品の1つです。
日本型オペレーティングリース投資によって生じた損失(減価償却費)は損益通算が認められるため、利益の繰り延べ策として法人で人気を集めている手法です。
また航空機・船舶・コンテナといった高額な物件を取り扱うため、一度に数千万円~数億円単位の利益を圧縮できるのが特徴。
永続的な法人税の節税対策にはなりませんが、突発的な利益が発生した年の節税対策として効果的な方法といえます。
税制上の優遇措置を活用
中小企業については、あらかじめ税制上の優遇措置が複数用意されているため、こちらを活用するのもおすすめです。
代表的な中小企業向けの優遇措置として、以下のようなものが挙げられます。
法人税率の軽減
通常の法人税の税率は23.2%ですが、中小企業の場合は所得のうち800万円までの部分について15%まで法人税率が軽減されています。
事業年度開始時期 | 800万円以下の部分 | 800万円超の部分 |
---|---|---|
平成30年3月31日まで | 15% | 23.4% |
平成30年4月1日から平成31年3月31日まで | 15% | 23.2% |
平成31年4月1日以降 | 19% | 23.2% |
繰越欠損金の相殺
青色申告書を提出する法人は、税務上の欠損金(赤字)を翌年度から10年間まで繰り越すことが可能です。
繰り越した欠損金は翌年度以降の課税所得と相殺することができます。
通常は課税所得の50%相当額が相殺できる限度となりますが、中小企業の場合は全額を相殺できるという点で優遇されています。
少額減価償却資産の特例
中小企業では、取得価額が30万円未満の固定資産を取得した場合に、合計300万円を上限として全額損金算入することが可能です。
こちら2020年までの期限付きの特例でしたが、令和2年度の税制改正において、令和4年(2022年)まで適用期限が延長されることが決定しています。
まとめ
- 法人で節税を行うときは、脱税や租税回避にあたる行為を避け、適切な方法で対策をとることが大切
- 決算直前に駆け込みで利用できる節税策は限られているため、前もって計画を立てながら進める必要がある
- 中小企業は税制上の優遇措置や共済制度などが充実しており、節税面以外のメリットも期待できる
中小企業だからこそ利用できる節税方法も多いので、これらを上手に活用して効果的に節税を行いましょう。
また突発的な利益が出た年に追加で行う節税対策として、日本型オペレーティングリースなどの投資もおすすめです。
「ひこうきの窓口」では、経営状況に合わせた投資商品の提案が可能なため、利益対策でお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。