富裕層や高額所得者と呼ばれる方たちが向き合わなければならない課題の1つに「税金」があります。
所得額が大きいほど納税額も大きくなるため、富裕層の方はいかに適法性のあるやり方で節税を行えるかが重要です。
この記事では、富裕層の方が利用できるおすすめの節税方法について解説していきます。
生命保険協会認定FP(TLC) / 相続診断士 / MDRT成績資格会員(COT)
この記事の監修担当者:高橋進
新卒で大手百貨店に入社。食料品部では催担当、労働組合では執行役員を務め、接客販売と社内改善に貢献。グッドサービス賞受賞。
その後2013年、外資系大手生命保険よりヘッドハンティングを受け転職。各コンテストで入賞を果たし、個人保険全国3200人中4位特別表彰など業績を拡大。2015年大手上場金融代理店に入社。
MDRT、COT成績資格会員と実績を伸ばし、ワンストップで顧客のための金融サービスを展開する独立型資産形成アドバイザーとして、マネーセミナー講師をしながら、個人から法人、幅広く提案している。その後、非金融業界の会社経営などにも参画し、幅広い知識と経験を持つ。
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富裕層向けの節税対策とは
まずは、富裕層の方が広く活用している基本の節税方法について詳しく見ていきましょう。
所得控除・税額控除で納税額を減らす
富裕層の方に限らず、節税対策を行ううえで最初に目を向けるべきポイントが「所得控除」と「税額控除」です。
所得控除と税額控除はいずれも納税額の減額に利用できる制度で、それぞれ10種類以上の控除が設定されています。
所得控除
所得控除とは、収入から必要経費を差し引いた「所得金額」に対して適用できる控除のことです。
扶養家族がいる場合や高額な医療費を支払っている場合など、一定の基準よりも支出が大きくなった場合に控除を行うことで、税負担を軽減できるという仕組みです。
所得控除は全部で15種類あり、代表的なものとして以下が挙げられます。
配偶者控除 | 納税者に所得税法上で控除対象となる配偶者がいる場合に受けられる控除。配偶者の年間所得によって控除額が異なります。 |
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扶養控除 | 納税者に所得税法上で控除対象となる扶養家族がいる場合に受けられる控除。子どもまたは両親(70歳以上)などが対象となります。 |
医療費控除 | 納税者本人および同一生計の家族が支払った医療費が一定額を超えた場合に受けられる控除。実際の医療費・治療費だけでなく、通院のための交通費や特定の医薬品の購入費なども対象となります。 |
寄付金控除(ふるさと納税など) | 納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して寄附を行った場合に受けられる控除。 |
生命保険料控除 | 納税者が生命保険料・個人年金保険料を支払った場合に受けられる控除。 |
上記の他、要件なしで誰でも利用できる「基礎控除」というものがあります。
これまでは所得に関係なく一律38万円の控除を受けられましたが、令和2年に改正が行われ、超富裕層の方(年間所得2,500万円以上)は控除を受けることができなくなりました。
また2,400万円超2,500万円以下の方も控除額の減額がありますので、富裕層の方は注意が必要です。
税額控除
税額控除とは、所得控除後の課税所得金額に税率をかけた「税額」に対して適用できる控除のことです。
所得金額が所得の一部を差し引ける制度であるのに対し、税額控除は納税額そのものを減額できる制度であるため、節税効果としてはこちらの方が高いと言えます。
税額控除は20種類以上あり、代表的なものとして以下が挙げられます。
配当控除 | 総合課税の配当所得がある場合に受けられる控除。配当所得の金額の10%または5%相当を控除できます。 |
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住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除) | 住宅の新築・取得・増改築等をした場合に受けられる控除。災害時の特例なども設けられています。 |
外国税額控除 | 外国税所得を納付している場合に受けられる控除。外国株式の配当金・利子や海外不動産による所得などが対象となります。 |
不動産投資を活用した資産運用
富裕層の方にとって非常に高い節税効果を期待できる手法が不動産投資です。
不動産を購入すると、以下の2つの節税効果を見込めます。
- 減価償却費の計上による所得の圧縮
- 所得税率・譲渡税率の差異による節税
不動産を購入した場合、建物部分の費用に関しては所定の期間で減価償却することができます。
例えば、建物価額5,000万円・減価償却期間4年の中古マンションを購入した場合、4年にわたって1,250万円ずつ費用計上できるということです。
また物件の売却時に発生する譲渡税も、富裕層の方にとっては節税のポイントです。
例えば、年間の課税所得が2,000万円だったとすると、その年は約50%の所得税・住民税率がかかります。
一方物件売却時に発生する譲渡税率は20%(長期譲渡の場合)であるため、税率差の30%を節税できることになるのです。
所得が高いほど税率差による節税効果が高まるため、富裕層の方にはメリットのある手法と言えるでしょう。
ただし、現在この手法を利用できるのは日本国内の不動産に限られている点に注意が必要です。
これまでは建物部分の価値が高い海外(アメリカ)不動産が富裕層から人気を集めていましたが、税負担の公平性に欠けるとして2020年の税制改正で規制。
過去の取得分まで規制が影響するなど、富裕層に対する節税対策の封じ込めが強まってきているのが現状です。
相続税・贈与税への対策
富裕層の方の節税対策は、家族・親族にとっても他人事ではありません。
富裕層の方が亡くなった場合には、遺産を受け取ることになる家族・親族に「相続税」の負担がかかるからです。
相続後に納税額が大幅に高くなり、税金を支払えなくなるといったことにならないよう注意が必要です。
富裕層の方におすすめの相続税対策として、生前贈与があります。
生前贈与はその名の通り、生前に資産を移転させてしまう方法のことで、一定額までは非課税で贈与できるのが特徴。
生前贈与には「一般贈与」と「相続時精算課税制度」の2種類があり、それぞれ非課税枠・税率は以下の通りです。
一般贈与(暦年贈与) | 相続時精算課税制度 | |
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贈与する人 | 制限なし | 60歳以上の父母・祖父母 |
贈与を受ける人 | 制限なし | 20歳以上の子・孫 |
非課税枠 | 年間110万円以内 | 累計2,500万円以内 |
税率 | 110万円を超えた額に対して10%~55% | 2,500万円を超えた額に対して20%を仮納付(相続時に贈与額と合算し、相続税の税率で精算) |
なお、令和3年度の税制改正大綱にて、相続税と贈与税の見直し(一体化)についての言及がありました。
相続税と贈与税が一体化された場合、前述した暦年贈与を利用できなくなる可能性があり、今後の節税対策に大きく影響すると考えられます。
先ほどの不動産投資と同様、相続面に関しても富裕層への節税封じが加速していると言わざるを得ないでしょう。
税金対策を効率化する“ファミリータックスプランニング”
富裕層ならではの節税方法として、資産管理のための法人設立が挙げられます。
法人を設立すると、これまで個人で管理してきた資産の一部を法人の資産として分散できるようになります。
また家族を役員に配置することで、資産を家族内で回して効果的に節税対策を行えるといったメリットも。
法人化&家族経営による具体的な節税メリットとして、以下のようなものが挙げられます。
所得税と法人税の税率差 | 所得税が最大45%であるのに対し、法人税は最大でも約23%で済む |
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経費化できる費用 | 生命保険料・家賃(自宅の社宅化)・旅費交通費などの経費計上が可能 |
給与所得控除の適用 | 自身を社長とすることで役員報酬の支給ができる |
家族への給与支給 | 家族・親族を役員にすることで、役員報酬という形で資産の分散ができる |
退職金制度の活用 | 退職金は退職所得控除などによる優遇措置があり、節税効果を見込める |
投資費用の損益通算 | 株式配当金の一部益金不算入やオペレーティングリース投資による減価償却費の損金計上など |
相続税対策 | 会社の所有財産に対しては相続税がかからない(家族を株主にしておく) |
また、個人に対して規制のかかっている海外不動産投資も、法人であれば引き続き利用可能となっています。
資産管理会社の設立は相続税対策などにも効果が見込めるため、富裕層の方はもちろん、その家族・親族にとってもメリットのある手法だと言えるでしょう。
まとめ
- 富裕層向けの節税対策として、控除の活用や投資による資産運用、生前贈与による相続税対策などがある
- 海外不動産投資や生前贈与(暦年贈与)は規制の動きが進んでおり、富裕層に対する節税封じが年々強まっている
- 法人化によって家族全体の税効率を高める“ファミリータックスプランニング”もおすすめ
近年は日本だけでなく、世界的に富裕層・超富裕層の方に対する課税強化の動きが広がっています。
個人での節税では不十分という場合は、法人化による節税メリットの享受を検討してみてはいかがでしょうか。