中小企業が適切な節税対策を行うには、普段からの収支把握やシミュレーションが大切です。
この記事では、中小企業における節税の考え方と、主な節税方法・税制について解説していきます。
節税を行ううえでの注意点もまとめているので、中小企業を経営している方で税金対策の強化をお考えの方はぜひ参考にしてみてください。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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中小企業における節税対策の考え方
まずは、基本的な節税対策の考え方と、取り入れる節税方法を考えるうえで必要となる下準備について詳しく見ていきましょう。
正しい節税対策とは
節税対策とは、中小企業などの法人が得た所得や、各個人の所得に対する税金をなるべく安く抑えるために用いられる手法のことです。
本来支払わなければならない税金は納めつつ、余分な税金を支払わなくて済むように対策を行っていきます。
また、節税対策によって温存できた資金を活用し、会社の成長につながるような投資・運用を行うことも大切です。
つまり、会社のためになる手法を選択し、適切に課税額を抑えることが節税対策における基本の考え方となります。
節税前の準備①会社の収支をしっかり把握する
適切な節税を行うためには、会社の収支をきちんと把握しておくことが大切です。
月単位の利益や支出・経費の状況を管理し、どのような節税対策が必要か・いくら程度の節税が望めるかといった点を見極められるようにしておきましょう。
節税前の準備②決算前のシミュレーション
決算の直前になってから慌てて節税対策を検討しても、利用できる方法は限られてしまいます。
希望通りの節税を行うためにも、なるべく早い段階から計画を立て、シミュレーションを実施しながら調整していくことが大切です。
遅くとも決算の3か月前からシミュレーションを開始し、2ヶ月前・1ヶ月前とシミュレーションを繰り返して適切な節税対策を組み込むようにしましょう。
代表的な節税手法
ここからは、中小企業で取り入れられる代表的な節税対策を紹介していきます。
決算対策として活用できる手法も掲載しているので、決算前の調整でお悩みの方もぜひ参考にしてみてください。
役員報酬の見直し
中小企業の節税対策としてポピュラーな方法が、役員報酬の経費化です。
以下のどちらかの条件を満たすことで、会社の役員に対して支給する報酬を経費として計上できます。
定期同額給与
定期同額給与とは、毎月一定額の役員報酬を支払う仕組みのことです。
定期同額給与が認められると役員報酬を経費計上できるようになり、利益の圧縮による節税が可能となります。
なお、役員報酬の見直しを行うには、事業年度開始の属する会計期間開始日から3ヶ月以内に給与改定を行う必要があります。
また利益が増加したからといって一部の月だけ追加の報酬を支払うことはできないので注意しましょう。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員報酬の支払時期・支払額を事前に取り決め、税務署へ届ける制度のことです。
定期同額給与の条件を満たしていない場合でも、事前に申告を受けているものであれば経費計上が認められるという考え方です。
こちらは事業年度ごとに届け出る必要がありますが、非常勤の従業員がいる場合などにおすすめの手法と言えます。
固定資産の売却・除却
不要となった固定資産を売却・廃棄(除却)することで、損失を経費計上することができます。
また、処分にかかる費用をすぐに工面することが難しい場合は、会計上でのみ除却処理を行う「有姿除却」という方法も便利です。
ただし有姿除却の場合は、税務調査の際に不使用であることを証明する資料が必要となるため、事前に準備しておくようにしましょう。
出張旅費規程の作成
出張旅費規程とは、出張の際に必要となる費用の取り扱いや支給額などをまとめた規程のことです。
出張旅費規程に則って交通費などの手当を支給することで、その費用を経費化することが認められます。
なお出張旅費規程は会社の全従業員に対して適用されるため、一部の役員に限定して支給するといったことはできません。(役職によって金額を変えることは可能)
中小企業向け共済の活用
中小企業向けの共済制度に加入して、掛け金を経費計上することで節税を行う方法もおすすめです。
中小企業向けの共済制度には以下のような種類があります。
小規模企業共済 | 社長自身の退職に備えて、社外に退職金を積立てておくための制度 |
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中小企業退職金共済 | 従業員の退職に備えて、社外に退職金を積立てておくための制度 |
中小企業倒産防止共済 | 取引先が倒産した場合などに、掛け金の最大10倍の融資を無担保・無保証・無利子で受けられる制度 |
日本型オペレーティングリース投資
日本型オペレーティングリースとは、オペレーティングリース取引に匿名組合と呼ばれる契約形態を組み合わせ、法人からの出資を受けられるようにした投資商品のことです。
法人として出資を行うと、リース物件の減価償却費や売却益を会社の損益と通算できるようになり、大幅な利益の繰り延べが可能となります。
対象となる物件は航空機・船舶・コンテナといった高額商品で、一度に数千万円~数億円単位の繰り延べも可能です。
永続的な節税対策にはならないものの、突発的な利益が出た年の対策や、決算対策にも活用できるおすすめの方法です。
中小企業が知っておきたい税制
中小企業の場合は、様々な税制上の優遇を受けられるため、節税対策と合わせて確認しておきましょう。
税制の優遇措置
中小企業向けの優遇措置には様々なものがありますが、代表的な措置として以下が挙げられます。
法人税率の軽減
通常の法人税率は23.2%ですが、中小企業の場合は所得のうち800万円までの部分に対して15%の税率で計算することが認められています。
事業年度開始時期 | 800万円以下の部分 | 800万円超の部分 |
---|---|---|
平成30年3月31日まで | 15% | 23.4% |
平成30年4月1日から平成31年3月31日まで | 15% | 23.2% |
平成31年4月1日以降 | 19% | 23.2% |
繰越欠損金の相殺
青色申告書を適用している法人は、税務上の欠損金(赤字)を最長10年間まで繰り越すことが可能です。
繰り越した欠損金は翌年度以降の黒字と相殺できるため、利益の圧縮による節税効果も見込めるでしょう。
また通常は課税所得の50%相当額までしか相殺できませんが、中小企業の場合は全額を相殺できるという点で優遇されています。
中小企業経営強化税制
中小企業経営強化税制とは、一定の設備を取得した場合に、以下のいずれかを選択できる税制のことです。
- 取得価額の100%の特別償却
- 取得価額の7%の税額控除
- 取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円以下の法人の場合)
中小企業の経営力向上を目的とした税制で、中小企業経営強化法の認定を受けている必要があります。
中小企業経営強化税制の対象となる資産は以下の通りです。
生産性向上設備 | 販売が開始されてから一定期間以内であり、かつ旧モデル比で1%以上の経営力向上を実現する機械及び装置・工具・器具及び備品・ソフトウェア |
---|---|
収益力強化設備 | 年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれる機械及び装置・工具・器具及び備品・ソフトウェア |
デジタル化設備 | 事業プロセスの遠隔操作・可視化・自動制御化を可能とする機械及び装置・工具・器具及び備品・ソフトウェア |
中小企業投資促進税制
中小企業投資促進税制とは、一定の設備投資を行った場合に、以下のいずれかを選択できる税制のことです。
- 取得価額の30%の特別償却
- 取得価額の7%の税額控除(個人事業主または資本金3,000万円以下の法人の場合)
中小企業の生産性向上を目的とした税制で、こちらは中小企業経営強化法の認定がなくても活用することができます。
中小企業投資促進税制の対象となる資産は以下の通りです。
- 機械及び装置(1台160万円以上)
- 測定工具および検査工具(1台120万円以上または1台30万円以上で合計120万円以上)
- ソフトウェア(1本または合計で70万円以上) ※開発研究用のものなど一部を除く
- 貨物自動車(車両総重量3.5t以上)
- 内航海運業に使用する船舶(取得価額の75%が限度額)
中小企業が節税する上で注意すべきポイント
最後に、中小企業が節税対策を考えるうえで注意が必要となるポイントを解説していきます。
節税と脱税の違い
節税は、あくまでも余分な税金の支払いを防ぐための策であり、本来支払わなければならない税金をごまかすことではありません。
必要な税金の支払いから逃れようとすることは「脱税」といい、発覚した際には「5年以下の懲役」または「500万円以下の罰金」が課せられます。
企業の信用も失うことになるため、節税対策を取り入れる場合は、その方法が正当なものであるかを見極めることが大切です。
会社にとってメリットのない節税
節税対策について調べると、「高級車を買う」「社員旅行を豪華にする」といった方法を紹介する記事が出てきます。
これらの方法でも一時的な節税はできますが、会社運営において意味のある出費ではないため、本来の「節税」からは外れた手法と言えるでしょう。
福利厚生を充実させることはもちろん重要ですが、節税のためだけに無理やり福利厚生費を増やす必要はありません。
あくまでも“会社の将来にメリットのある節税対策”を前提として手法の選択を行うようにしましょう。
税制改正
現在、中小企業に対して様々な税制面の優遇措置がとられていますが、これらは永続的なものではありません。
税制改正によって都度延長または終了が決定されるため、国が目標を達成したと判断すれば優遇措置がなくなる可能性もあるのです。
また節税対策の内容に問題がある場合も、税制改正によって規制されることがあります。
過去に規制された例として、以下のようなものが挙げられます。
- 無制限であったレバレッジドリースの損金算入額に上限が設けられた
- 生命保険の解約返戻金に対する損金算入割合が大幅に制限された
- 海外不動産投資の赤字を損益通算できなくなった(個人の場合) など
今回紹介した節税対策についても、いずれルール変更が行われる可能性があるため、常に税制改正の動向をチェックしておく必要があるでしょう。
まとめ
- 中小企業が節税対策を取り入れる場合は、なるべく早くから収支計画・シミュレーションを実施することが大切
- 代表的な節税対策として、役員報酬の見直しや共済への加入などが挙げられる
- 中小企業向けに設けられた税制優遇などの活用もおすすめ
中小企業にとって節税対策は経営に影響する重要な施策ですが、むやみに取り入れて経営を悪化させたり、脱税になったりしては意味がありません。
年度初めなど早いタイミングで計画を立て、効率的に節税を行えるよう工夫していきましょう。