得意先との接待や、役員・従業員への福利厚生を目的として、法人でゴルフ会員権を購入することがあります。
業務上必要な場合であれば経費にできると考える方もいるかもしれませんが、ゴルフ関連費用の中には経費にできないものもあるので注意が必要です。
この記事では、ゴルフ会員権をはじめとする関連費用の会計処理と、法人税の節税に活用する方法を解説していきます。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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法人・個人におけるゴルフ関連費用の取り扱い
ゴルフ会員権やその他の費用の取り扱いは、ゴルフ会員権の種類および法人・個人のどちらの会員制度であるかによって変わってきます。
まずは、ゴルフ会員権の種類と、各費用の会計処理について詳しく見ていきましょう。
ゴルフ会員権の種類
ゴルフ会員権には以下の2種類があります。
預託金会員制のゴルフ会員権
預託金会員制とは、ゴルフクラブの経営会社にお金を支払う代わりに、会員資格を得る仕組みのことです。
ゴルフクラブを優先的に利用できる権利や、預託金返還請求権を持つことができます。
株主会員制のゴルフ会員権
株主会員制とは、ゴルフクラブの経営会社の株主となる代わりに、会員資格を得る仕組みのことです。
預託金会員制のゴルフ会員権と同様の権利に加え、株主総会などにおける議決権を持つことができます。
ゴルフ会員権・関連費用の会計処理方法
ゴルフ会員権および関連費用を支払ったときの会計処理は以下の通りです。
ゴルフ会員権(入会金)
法人がゴルフ会員権を購入した場合(=入会金を支払った場合)の支出額は、原則として資産計上を行います。
法人向けのゴルフ会員権には、社長や特定の役員だけが利用できる「記名式法人会員権」と、従業員なら誰でも利用できる「無記名式法人会員権」がありますが、どちらも取り扱いは同様です。
ゴルフ会員権は譲渡可能な権利であり、資産としての性質を持っていると判断されることが理由です。
ただし、ゴルフ会員権が業務上必要なものではなく、役員の趣味として行うものである場合は、資産計上は行わず、役員の給与として取り扱う点に注意が必要。
またゴルフクラブによっては法人向けの会員制度がなく、個人会員として入会せざるを得ないケースがあります。
この場合も、業務上必要と判断される場合は資産計上、そうでない場合は個人の給与として取り扱うことになります。
ゴルフ会員権の名義書換料
他者からゴルフ会員権を購入した場合は、通常通り入会金を支払った場合と同様、資産計上が必要です。
一方、すでに入会済みのゴルフ会員権の名義を変更する場合は、交際費として経費計上することができます。
年会費・年決めロッカー代
法人・個人にかかわらず、ゴルフ会員権が資産計上されている場合は年会費・年決めロッカー代などの費用を交際費として経費計上することができます。
反対に、資産計上されていない場合の年会費・年決めロッカー代は給与として取扱われるので注意しましょう。
プレー代
ゴルフのプレー代については、得意先との接待など、業務上必要なものである場合のみ交際費として経費計上することが認められています。
ゴルフ会員権が資産計上されている場合でも、個人的な趣味で利用した場合は給与として処理されます。
ゴルフ会員権を活用して法人税を節税するには?
前述した通り、ゴルフ会員権は基本的に資産計上となるため、購入しただけでは法人税の節税にはなりません。
では、どのような場合であればゴルフ会員権での節税が行えるのでしょうか。
続いて、ゴルフ会員権を活用した法人税の節税手法について解説していきます。
ゴルフ会員権の評価損を経費計上できるケース
ゴルフ会員権の評価損は原則として経費に認められませんが、以下のケースに該当する場合、法人に限り評価損の経費計上による節税が可能です。
預託金会員制のゴルフ会員権の場合
預託金会員制のゴルフ会員権(入会金)は「保証金」の扱いとなるため、破産手続開始の決定などによってゴルフクラブの利用権が消滅した場合に、預託金返還請求権(金銭債権)が発生します。
これにより、評価損を「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金」または「貸倒損失」として経費計上し、節税を行うことができるようになります。
株主会員制のゴルフ会員権の場合
株主会員制のゴルフ会員権(入会金)は「上場有価証券等以外の有価証券」の扱いとなるため、ゴルフクラブの資産状態が著しく悪化した場合に評価損の算入が可能です。
ゴルフクラブの資産状態が悪化したと判定される基準は以下の通りです。
- ゴルフ会員権を取得して相当の期間が経過したあとで、ゴルフクラブ側に次の事実が生じた場合
・会社の整理開始または特別清算開始の命令
・破産手続開始の決定
・民事再生手続開始の決定
・会社更生手続開始の決定 - 期末におけるゴルフ場側の一株または一口当たりの純資産価額が、購入時点の純資産価額と比べておおむね50%以上下落した場合
ゴルフ会員権の売却による損金算入
ゴルフ会員権を他者に売却したときの売却額が取得価額よりも低くなった場合は、売却損として損金算入することができます。
法人の場合
法人の場合は、ゴルフ会員権を所有していた期間にかかわらず、以下の方法で計算します。
<売却益または売却損=売却価額-(取得価額+売却費用)>
売却損が計上された場合はその他の法人所得と損益通算ができるため、節税対策への利用も可能といえるでしょう。
個人の場合
個人の場合は、ゴルフ会員権の所有期間が5年以内であるかどうかによって計算方法が異なります。
- 所有期間が5年以内の場合(短期譲渡所得)
<短期譲渡所得=売却価額-(取得価額+売却費用)-特別控除額(最高50万円)> - 所有期間が5年を超える場合(長期譲渡所得)
<長期譲渡所得=(売却価額-(取得価額+売却費用)-特別控除額(最高50万円))×1/2>
なお個人の場合、ゴルフ会員権による売却損を他の給与所得などと損益通算することはできません。
退会の届出(預託金会員制の場合)
預託金会員制のゴルフ会員権の場合で、かつ退会の届出を提出した場合は、ゴルフクラブが破産したときと同様に預託金返還請求権(金銭債権)が発生します。
この場合も「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金」または「貸倒損失」として損金算入することが可能です。
まとめ:ゴルフ会員権による節税効果はあまり期待できない
- ゴルフ会員権の取得費用(入会金)は原則資産計上となるため、節税対策には活用できない
- ゴルフ利用に伴う年会費・年決めロッカー代・プレー代などについては、業務上必要と認められる場合のみ経費計上による節税が可能
- ゴルフ会員権で節税を行う方法としては、売却損または評価損の経費計上が挙げられる
ゴルフ会員権で節税を行うには、ゴルフクラブ側の破産や清算によるものを除き、原則売却によって損失が出た場合のみとなります。
本格的に法人税の節税対策を行うのであれば、別の手法を選択した方が良いといえるでしょう。