会社の経営を後継者に引き継ぐことを「事業承継」といいます。
事業承継の際は事業そのものだけでなく、株式やその他の財産なども譲渡または相続することが必要です。
これらは全て課税対象であり、税金を安く抑えるためには自社株の評価額が下がったところで承継を行うのがポイントとなります。
ここでは、事業承継における自社株対策として日本型オペレーティングリースを活用する仕組みについて解説。
オペレーティングリースの注意点や商品の選び方などもまとめているので、事業承継での節税方法でお悩みの方はぜひ参考にしてみてくださいね。
AFP(日本FP協会認定) / MDRT成績資格会員(COT)
この記事の監修担当者:渋谷幸司
新卒で大手鉄鋼商社に入社。5年半、日本を支える鉄鋼企業と世界の橋渡しに尽力した後、2015年外資系大手生命保険会社に転職。転職後も前職のお客様を金融業の側面から支えたいという想いで奮闘した。
日々取り組んでいく中で、世界情勢の変化や、日本社会の制度改定、お客様の思考変化を察知し、自身の事業変革を決断。
2018年大手上場金融代理店に入社し、生命保険業においてはMDRT、COT成績資格会員と実績を伸ばしつつ、所属会社で扱っていないDC(確定拠出年金)などを自ら会社の枠を超えて代理店契約するなど勢力的に活動。現在は保険営業マン向けのセミナー講師を務め、「先生」として同業者から熱い信頼を受けている。
個別相談のご要望も承りますので、お気軽にお問い合わせください。
節税対策として人気の【日本型オペレーティングリース】とは?
事業承継にともなう節税対策として、多くの企業が活用している日本型オペレーティングリース。
まずは、日本型オペレーティングリースの具体的な仕組みと、節税に有効とされる理由について詳しく見ていきましょう。
オペレーティングリースの概要
オペレーティングリースとは、飛行機・船舶・コンテナといった物件を航空会社や海運会社へ貸し出し、リース料を受け取って利益を得る取引のことです。
投資家は匿名組合を通して物件の購入に出資することができ、リース期間が終了したところで出資額に応じた分配金を受け取れる仕組みです。
オペレーティングリースの具体的なスキームは以下の通り。(航空機リースの場合)
- リース会社が匿名組合を立ち上げ、投資家(匿名)から航空機購入の資金を集める
- 投資家からの資金が不足している場合は金融機関から差額を借り入れる
- 出資金・借入金を使って航空機メーカーから航空機を購入する
- 購入した航空機で航空会社とリース契約を結び、リース会社がリース料を得る
- リース期間満了時に航空会社または市場が航空機を買い上げ、利益が投資家に分配される
少し複雑な仕組みのように見えますが、実際は商品の購入に投資を行い、購入した商品をリースすることで利益を得られるというシンプルなスキームです。
減価償却による損金算入が節税のポイント
オペレーティングリースでは、出資した初年度から2・3年目までに、出資額の100%が減価償却されます。
特に初年度は70%~80%ほどを減価償却費として損金計上できる商品もあり、この損金算入割合の高さが節税に有効とされる理由です。
なぜこれほどまでの損金計上ができるのかと言うと、オペレーティングリースでは金融機関からの融資によってレバレッジをかけているからです。
例えば融資を含めて100億円の航空機を購入した場合、出資額は1億円だったとしても、100億円に対して減価償却が行われます。
そのため初年度から多額の減価償却費が発生し、これを会社の損金として計上することができるのです。
損金が増える=利益が減る、つまり課税所得が少なくなり、結果として大きな節税効果を生みます。
損金計上できるのは出資額と同額までですが、繰り延べたい金額に合わせて出資額を決められるのもオペレーティングリースが法人から人気を集める理由の1つです。
日本型オペレーティングリースを事業承継に活用する仕組み
オペレーティングリースによる節税は、事業承継のシーンでも役立ちます。
続いて、事業承継で発生する税金の種類と、オペレーティングリースを活用した節税方法について詳しく見ていきましょう。
事業承継で発生する税金の種類
親族などを後継者とする場合、事業承継にともなって発生する税金は、主に贈与税・相続税の2種類です。
贈与税は、株式の譲渡や生前贈与の際に発生する税金です。
贈与額が年間110万円以内であれば非課税となりますが、株式移転では110万円を超えるケースがほとんどなので、基本的に贈与税は発生するものと考えましょう。
上場企業の場合は時価、非上場企業の場合は同業他社の株式と比較したうえで株価の算出を行うのが一般的。
一方相続税は、経営者が亡くなってから事業承継を行う場合に発生する税金です。
こちらも税金を計算する際に自社株の評価額(株価)を求める必要があります。
その他、M&Aによる事業承継では、株主が個人または法人のどちらであるかによって、所得税・住民税・法人税などの税金が発生します。
評価額の引き下げによる自社株対策
上記の通り、事業承継によって株式移転を行う場合は、株価に基づいて贈与税・相続税が計算される仕組みです。
つまり、事業承継にかかる税金を節税したいのであれば、株価を引き下げて税額を減らすのがポイントとなります。
オペレーティングリースを活用した場合、多額の減価償却費が計上されることで一時的に会社の評価が落ち、合わせて株価も引き下げられます。
ここで株式移転を行えば、贈与税・相続税の計算に使われる評価額も低くなり、結果として税金を減らすことが可能です。
分配金は社長の退職金と相殺
オペレーティングリースは利益の繰り延べによって節税を行っているため、リース期間満了時に受け取る益金への節税対策も必要です。
事業承継を絡めた出口戦略としては、現社長の退職金と益金を相殺させる方法がおすすめ。
リース期間が終了すると、分配金として出資額とほぼ同額、または売却によるキャピタルゲイン(売買差益)を含めたプラスの益金が入ります。
これを現社長の退職にともなう退職金の原資にあてることで、費用と収益を相殺し、益金にかかる税金を抑えることができます。
このように、オペレーティングリースを活用すれば、入口と出口の2度にわたって節税が可能となるのです。
またオペレーティングリースによる損益は営業外損益となるため、営業利益にキズを付けることなく対外的な評価のみを落とせるのもメリットと言えます。
事業承継に活用する場合の注意点
オペレーティングリースを活用した事業承継は多くのメリットがありますが、一方で注意しておくべきリスクも存在します。
ここからは、事業承継にともなうオペレーティングリース活用のデメリットについて詳しく見ていきましょう。
中途解約は原則できない
オペレーティングリースのデメリットとして、出資者側による中途解約ができないという点があります。
物件の種類によっても異なりますが、1つの取引につき5年~12年ほどの期間を要するため、事業承継に活用する際は中長期的な計画が必要です。
リース先が早期購入選択権を行使した場合をのぞき、リース期間中は出資した資産の移動ができないことを理解しておきましょう。
ドル建て商品の場合は為替リスクがある
オペレーティングリースの案件はドル建てのものが多く、円建て商品は全体の10%程度となっています。
ドル建て商品の場合は為替変動によって利回りが上下しやすいため、売却のタイミングによっては分配金が元本割れする可能性も。
円建て商品の中で選ぶことも可能ですが、数少ない商品から条件や事業承継のタイミングが合うものを見つけるのは難しいです。
そのため基本的には、為替リスクを踏まえたうえでドル建て商品へ出資することになるでしょう。
事業承継で日本型オペレーティングリースを利用する際の商品の選び方
オペレーティングリースの物件には、主に航空機・船舶・コンテナの3種類があります。
最後に、オペレーティングリースの各物件の特徴と違い、また事業承継に活用する場合の物件の選び方について詳しく見ていきましょう。
航空機・船舶・コンテナの特徴
航空機・船舶・コンテナの3種類は、それぞれ最低出資額やリース期間の相場が以下のように異なります。
航空機 | 船舶 | コンテナ | |
最低出資額 | 3,000万円 | 3,000万円 | 1,000万円 |
リース期間 | 8年~12年 | 6年~10年 | 5年~7年 |
需要判定の指標 | 世界人口 | バルチック海運指数 | GDP成長率・交易係数 |
価値の変動 | 需要が高いため比較的安定している | 変動が激しい | 技術革新が起こらないため下落しにくい |
航空機
航空機は世界人口をもとに需要が判定されており、他の物件と比較して価格変動が安定しています。
今後も人口増加にともなって需要が高まると予想されているため、元本割れなどが発生するリスクは少ないでしょう。
リース期間は8年~12年と長期になりますが、オペレーティングリースの中で最も人気のある物件です。
船舶
船舶は航空機よりも短い6年~10年がリース期間の相場です。
バルチック海運指数による需要判定が行われており、需要の高いところで売却できれば大きな利益を生む物件となっています。
一方で、需要が大きく下がった場合は損失も大きくなる点に注意が必要です。
コンテナ
コンテナは船舶よりも更にリース期間が短く、相場は5年~7年となっています。
最低出資額も1,000万円と低く、価格変動も起こりにくいため他の物件と比較して投資しやすい物件と言えます。
調整役として、他の物件と組み合わせて活用されることが多いです。
事業承継の場合はリース期間の短い商品がおすすめ
先ほどもお伝えしたように、オペレーティングリースは出資者側で中途解約することができません。
そのため、リース期間が10年の物件に出資した場合は、10年後でないとお金が戻ってこないということです。
事業承継に活用する場合、出資のタイミングで株式移転を行うだけでなく、お金が戻ってくるタイミングで現社長の退職が必要となります。
あまり期間の長いものは事業計画が立てにくくなるため、なるべくリース期間の短い商品を選ぶのがおすすめです。
まとめ
- 日本型オペレーティングリースは、物件の購入に出資して利益の繰り延べを行う投資商品のこと
- 事業承継に活用することで、入口(株式移転)・出口(退職金との相殺)での節税が可能となる
- オペレーティングリースは中途解約ができないため、リース期間の短い商品を選ぶのがおすすめ
オペレーティングリースは減価償却費の計上による利益の繰り延べ策として広く知られている節税手法ですが、実は事業承継にもおすすめです。
事業承継での税金対策としてオペレーティングリースの活用をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。