法人税の節税対策として、生命保険の中でも「養老保険」を活用した手法が人気を集めています。
この記事では、養老保険の概要と節税の仕組みについて解説していきます。
かつて法人税対策として広く活用されてきた定期保険に関する取り扱いもまとめているので、節税のために保険への加入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
ファイナンシャルプランナー / 生命保険協会認定FP / MDRT成績資格会員
この記事の監修担当者:伊藤理沙
日系大手生命保険会社で活躍後、2015年より保険代理店に所属。ライフプラン、家計の見直し等の個人コンサルティングを主軸に、ライフプランセミナー等の講演活動も行っている。相談件数は2,000件以上。
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法人税の節税効果が期待できる養老保険の福利厚生プランとは?

法人向けの生命保険にはいくつかの種類がありますが、中でも節税対策に活用できるとして「養老保険」に加入する法人が増えています。
まずは、養老保険の概要と、養老保険を活用した節税の仕組み・メリットについて詳しく見ていきましょう。
養老保険の概要
養老保険とは、一定の保険期間および満期がある生命保険です。
被保険者が死亡した際には死亡保険金が支払われ、満期を迎えた場合には満期(生存)保険金が支払われます。
また中途解約した場合には、その時点の解約返戻率に基づく解約返戻金を受け取ることができます。
福利厚生プランの仕組み
養老保険は、死亡保険金と満期(生存)保険金のそれぞれに異なる受取人を指定できるという点が特徴です。
養老保険の死亡保険金と満期(生存)保険金の受取人がそれぞれ誰になっているかによって、経理処理は以下のように変化します。
死亡保険金の受取人 | 満期(生存)保険金の受取人 | 保険料の経理処理 | |
---|---|---|---|
① | 法人 | 法人 | 資産計上 |
② | 被保険者の遺族 | 被保険者 | 被保険者の給与 |
③ | 被保険者の遺族 | 法人 | 1/2資産計上・1/2損金計上(福利厚生費) |
④ | 法人 | 被保険者 | 合理性がなく否認リスクが高い |
上記の内、法人税の節税効果が期待できるのは③の組み合わせのみです。
その他は節税面におけるメリットが全くないため、ここでは詳しい説明を省略します。
福利厚生プランを活用した節税メリット
死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、満期(生存)保険金の受取人が法人となっている養老保険は、一般的に「福利厚生(ハーフタックス)プラン」と呼ばれています。
養老保険自体は非常に貯蓄性の高い保険商品であるため、法人加入の場合は原則として全額資産計上が必要です。
一方、資産の貯蓄と合わせて従業員の福利厚生も目的としている場合は、保険料の半分を福利厚生費として損金算入することが認められています。
また満期時に受け取ることのできる満期保険金は、支払った保険金の100%に近い金額となります。
このように、従業員への福利厚生を整えつつも、効果的に節税を行えるというのが養老保険の福利厚生プランのメリットです。
福利厚生を利用するときの注意点
養老保険の保険料の1/2を福利厚生費として損金算入するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 死亡保険金の受取人を被保険者の遺族、満期(生存)保険金の受取人を法人に設定する
- 会社の全従業員を被保険者とする
- 「福利厚生規定等」を整備し、保険金額や退職時の取り扱いなどを明確に定めておく
正しい契約内容になっていない場合、養老保険は福利厚生に該当しないと判定され、保険料を損金算入することができなくなる可能性があります。
節税メリットを最大限に受けるためには、専門家にアドバイスを聞きながら適切に導入することが大切です。
養老保険以外の生命保険でも法人税を節税できる?

法人向けの保険商品としては、養老保険の他にも定期保険や終身保険があります。
続いて、これらの保険でも法人税の節税効果を得ることができるのか、それぞれの仕組みや取り扱いを詳しく見ていきましょう。
2019年の税制改正による定期保険を使った節税が不可に
定期保険とは、被保険者が死亡した場合に、死亡保険金の支払いを受けられる生命保険のことです。
一定の保険期間があるものの、養老保険のように満期保険金が設けられていないため、いわゆる「掛け捨て」タイプの保険になります。
かつては定期保険商品の中でも保険料の全額を損金算入できる「全損保険」が人気を集めていましたが、行き過ぎた節税であるとして2019年の税制改正で規制。
保険期間に対して損金計算を行っていた従来の税制から、ピーク時の解約返戻率に対する損金計算へとルール変更が行われました。
現在の税制における定期保険の損金計上割合は以下の通りです。
ピーク時の返礼率 | 資産計上期間 | 資産計上割合 | 資産取崩期間 |
---|---|---|---|
50%超70%以下 | 保険期間の開始日から、当該保険期間の40%相当を経過する日まで | 当期分支払保険料×40% | 保険期間の75%相当が経過した日から保険期間の終了日まで |
70%超85%以下 | 同上 | 当期分支払保険料×60% | 同上 |
85%超 | ①保険期間の開始日から、解約返戻率のピーク期間の終了日まで | 10年目まで:当期分支払保険料×90%/11年目から:当期分支払保険料×70% | 解約返戻率のピーク期間が経過した日から保険期間の終了日まで |
②上記(①)期間経過後において、年換算保険料に対する解約返戻金の割合が70%を超える期間がある場合、保険期間の開始日からその期間の終了日まで | 同上 | 同上 | |
③上記(①・②)の資産計上期間が5年未満の場合は、保険期間の開始日から5年を経過する日まで(保険期間が10年未満の場合は、当該保険期間の50%相当を経過する日まで) | 同上 | 同上 |
例えば、ピーク時の解約返戻率が90%の定期保険に加入した場合、契約後10年間は支払った保険料の19%(100%-100%×90%×90%)しか損金算入できないことになります。
従来は最大で100%の損金算入が可能であったことを考えると、定期保険による節税効果は大きく薄れたと言えるでしょう。
終身保険には節税メリットがない
終身保険については、支払った保険料の全額が資産計上となるため、節税面でのメリットはありません。
ただし、契約者の名義を法人から役員に変更することで、保険契約自体を経営者が受け取れるため、個人の相続税対策として活用するケースではメリットのある商品と言えます。
まとめ
- 養老保険とは、死亡保険金または満期(生存)保険金を受け取ることのできる生命保険商品の1つ
- 法人税の節税対策として利用する場合は、福利厚生プランに該当するよう契約する必要がある
- 法人向けの定期保険や終身保険では、養老保険ほどの節税効果は期待できない
保障・貯蓄・節税を同時に実現できることから、養老保険はメリットの多い保険商品となっています。
その他の節税手法と上手に組み合わせながら、効果的に法人税を節税していきましょう。